実績を盛るコンサルタント

 

先日、企業内診断士の知人から「日沖さん、この間、超凄いコンサルタントの超凄い講演を聴きいて、超感激しました!」と言われた。その超凄いコンサルタント(A氏としよう)は、年間337日稼働している売れっ子らしい。知人はA氏の超凄い講演にすっかり心酔していたが、私は講演の中身以前に「337日稼働」という部分が引っ掛かった。

 

337日稼働は本当だろうか。337日稼働の内訳は、研修252日、コンサルティング85日とのことだ。そんなに稼働して、残りたった28日でいったいどうやって営業し、調整し、準備し、事後フォローをしているのだろうか。インプットはしているのだろうか。

 

研修に関しては、大企業の階層別研修を一手に引き受けるとか、有力な教育団体と契約し団体内で絶対的なエースに上り詰めれば、理屈の上では252日稼働すること不可能ではない。ただそれでも、事前の準備・調整や事後の報告・フォローが必要だし、企業は日曜・祝日・年末年始の研修開催を嫌がるし、遠隔地への移動もあるので、研修専業の人気講師でも200日くらいが限度だ(私も人気講師の部類に入るが、過去最高は180日くらい)。

 

ましてやコンサルティングは、研修よりさらに前後の手間がかかる。本格的なコンサルティングの場合、1日稼働するために営業・調整・準備・フォローなどで1日以上を費やすことが多い。コンサルティング専業でも、100日以上稼働するのはなかなかの売れっ子で、ましてや研修を252日やりつつ残り113日で85日稼働するというのは、物理的に不可能だ。

 

結論としては、A氏は実績を盛っている。盛っていないとすれば、営業・調整・準備なども稼働日として計算しているか、お客様から電話で10分間相談を受けたら「はいコンサル一丁上がり、1日稼働!」、企業を訪問して10分レクチャーしたら「はい研修一丁上がり、1日稼働!」とカウントしているのだろう。これはこれで広い意味で嘘である。

 

A氏は特殊な事例だろうか。残念ながら、そうでもない。コンサルタントの世界では、自分の実績を盛るということが日常茶飯事だ。学歴・保有資格の詐称もよくある。

 

あるコンサルタントは、ソフトバンクの子会社で3日間研修を担当し、たまたま孫正義社長と挨拶しただけなのに、「ソフトバンクは俺の支援で大きく成長した。俺は孫さんの社外参謀だ」と吹聴していた。街のコンサルタントだけではない。日本を代表する戦略コンサルタントH氏は、「俺の指導を素直に受け入れたホンダやユニチャームは大いに発展した。受け入れなかったダイエーや日本航空は破たんした」という極論を著書で披露している。

 

コンサルタント仲間の飲み会では、こうした実績・学歴・保有資格を盛る同業者のことがよく話題になる。ネタ的に面白いので盛り上がり、たいてい「そういう噓つきはクライアントから見透かされて、すぐにダメになるよ」という結論に落ち着くのだが、さて本当にすぐにダメになるのだろうか。

 

たしかに、積み重ねた噓を隠し切れなくなってクライアントや同業者から信用を失い、業界から姿を消したコンサルタントもいる。しかし、明らかに実績などを盛っているのに、しっかり生き延びているコンサルタントもまた多い。企業経営者は、暇なコンサルタントよりも商売繫盛で勢いのあるコンサルタントと付き合いたいと思う一方、同業者なら見抜けるA氏のような嘘も、部外者にはなかなか見抜けないからだ。

 

つまり、コンサルタントの世界は「嘘でも何でも言った者勝ち」ということだ。もう少し正確に言うと、クライアントにバレない程度に、同業者の悪評が立たない程度にスマートに実績などを盛るのが、コンサルタントが顧客開拓し、成功する秘訣である。

 

もちろん、それで良心が痛まないのか、人としてどうなのか、という疑問がある。「別に誰かに迷惑が掛かるわけじゃないから、ちょっとくらい噓ついても良いでしょ」という考え方に、私は賛同できない。

 

中小企業診断士の会員団体である中小企業診断協会では、今年から会員にコンプライアンス研修を展開しているが、コンプライアンスを守るかどうかは、結局、本人の良心次第だ。何とも対処のしようがない、意外な難題である。

 

(2019年9月16日、日沖健)