ダブルライセンスは有効なのか

 

独立開業を目指す中小企業診断士(以下「診断士」と略す)の方から、よく「診断士だけでは他のコンサルタントと差別化できないので、税理士とか他の資格を取った方が良いでしょうか?」という質問をいただく。今回は、2つの資格を持つこと、いわゆるダブルライセンスというややマイナーなテーマについて考えてみたい。

 

まず状況確認から。近年、中小企業診断士=経営コンサルタントに限らず、専門家として独立開業を目指す会社員が確実に増えている。各地で独立開業希望者向けのセミナーが開催され、大盛況だ。先月、セミナーを開催したところ、MLで案内を流した初日で75名の定員を上回る応募があり、たまげた。動機は人それぞれだが、大手企業がリストラをするなど会社勤務の魅力が低下していることが開業希望者増加の背景にあるようだ。

 

そして、複数の資格を取得して活動する専門家が相当数いる。2つ資格を持つダブルライセンス、3つ持つトリプルライセンス、中には10以上の資格を持っているというケースもある。私は診断士を持っているだけだが、周囲には税理士・弁護士・社会保険労務士などの資格を併せ持つ診断士が最近とみに増えている印象だ。

 

ダブルライセンスの専門家は、2つに分類できる。一つは、税理士・弁護士など専門資格の保有者が一般的な経営知識の資格である診断士(や資格ではないがMBA)などを取得するケース、もう一つは冒頭の質問のように、診断士が他のコンサルタントと差別化するために専門資格・周辺資格を取得するケースだ。

 

専門資格の保有者が診断士を取得する1つ目のケースは、大いにお勧めだ。税理士は、クラウド化の影響で記帳代行のような単純な業務の受注が減る一方、事業承継のような複雑な業務が増え、企業経営全般についての高度な知識が求められている。弁護士も、企業法務を担当する上で、企業経営の知識があると断然良いアドバイスができる。診断士を取得し、経営知識を武装することで、税理士・弁護士の業務は高度化し、拡大する。

 

一方、診断士が専門資格・周辺資格を取得するのは、ちょっと微妙だ。経営コンサルタントが税務・会計に業務を広げたいなら税理士資格が、法務に業務を広げたいなら弁護士資格がプラスに働く。あるいは、事業承継のような特定の分野を深めたいなら、事業承継士のような関連資格を取得することも有効だ。しかし、企業経営のコンサルティングや研修・セミナーを中心に活動するなら、専門資格・関連資格は不要だ。そもそも診断士すら必要ない。

 

診断士には、たくさんの資格を取りまくる“資格マニア”がいる。びっしり資格が記載された名刺を見たら、まず「凄いですねぇ!」と褒めるのが、士業の世界のお約束だ。しかし、内心は「資格にすがるって、そんなに自分に自信がないの?」と軽蔑している。コンサルタントは同業者からの紹介で仕事を受注することが多いのだが、普通、軽蔑する人に仕事を紹介しないので、資格マニアは仕事が増えないという状態になってしまう。

 

顧客は、コンサルタントなど専門家に専門的な知識・スキルを求める。資格はある分野の基本知識を持っていることの証明にはなるが、本当に顧客の役に立つ専門分野を持っているかどうかはわからない。専門能力の有無は、資格ではなく、仕事の中で証明していくしかない。資格が専門性の証明になると信じて資格を取り続けるのは、かなりイタい勘違いしていると言わねばならない。

 

以上、コンサルタントというマニアックな世界の話をしたが、一般のビジネスパーソンにも当てはまるだろう。自分が興味あることを学び、専門とする分野について研鑽を深め、その過程で資格を取得するのは良いことだ。しかし、専門外のこと、興味がないことについて資格を取得しても、何のプラスにもならない。ビジネスパーソンを救う武器として資格が注目される今だからこそ、何のための資格なのか、その役割について考えてみたいものである。

 

(2019年8月19日、日沖健)