先々週、弁護士と飲む機会があった。先週、税理士の団体から招かれて講演し、アフターで受講者の税理士の皆さんと飲んだ。私は中小企業診断士に登録して24年たつ。弁護士・税理士・中小企業診断士は、いずれも人気・難関の国家資格だが、色々と違う面もある。以下は、3つの資格についての雑感である。
まずは飲み会から。飲み会での弾けっぷりは、税理士が際立っている。深夜まで学生のようなノリで元気に飲む。肩を組んで青春ソング「貴様と俺」を合唱したのには驚いた。逆に弾けず淡々と飲むのは、弁護士である。中小企業診断士はその中間で、和やかに談笑してさっと飲んで1軒で帰る。サラリーマンの飲み会に一番近いのは中小企業診断士である。
飲み会の中で業務に関連した話題の割合は、高い方から弁護士・税理士・中小企業診断士である。弁護士は、カルロス・ゴーン氏など世間一般に関心の高い裁判だけでなく、自身が過去に担当した興味深い案件について教えてくれた。守秘には気を遣っていたものの、「こんな際どいこと話して大丈夫?」と驚いた。
自身の資格へのプライド・忠誠度の高さはどうだろう。心の内はわからないのでバッジの着用と名刺への資格名の記載で判断すると、高い方から弁護士・税理士・中小企業診断士の順である。弁護士はバッジの着用・名刺への記載とも100%であるのに対し、中小企業診断士は、あまりバッジを着用しないし、名刺にも記載しない。
業務のブラック度(多忙さ)は、高い方から弁護士・税理士・中小企業診断士の順か。お会いした弁護士は、事務所に入った最初の数年は毎日朝8時から終電の24時まで働いた。最近は余裕が出て22時くらいで帰れる日が少し増え、「人間らしい生活ができるようになった」と喜んでいた。税理士は確定申告の時期は殺人的に忙しいが、普段はそれほどでもない。中小企業診断士は、一部の売れっ子を除き平均的には暇だ。
頭の回転の速さは、速い方から弁護士・中小企業診断士・税理士の順か。弁護士は当然として、中小企業診断士も一流企業で管理職をしている頭脳明晰な企業内診断士が多い。それに比べて税理士は、論理力がやや弱い印象を受けた。難関資格を突破するのだから頭が悪いわけではないが、記帳代行など定型的な業務が多く、仕事で頭を使う場面が少ないのだろう。
収入については話題にならなかったが、どの資格も似たり寄ったりという印象だ。以前は、弁護士が断然高給で、中小企業診断士は「資格を取っても飯は食えない」と言われた。中小企業診断士は相変わらずだが、近年、弁護士の報酬水準が劇的に低下しており、大差なくなっている。3資格とも、資格の神通力はほぼゼロ、資格の経済的価値は資格取得費用や資格維持費を差し引くとマイナスだ(もちろん、個人差が大きい)。
あと共通しているのは、クライアントや事務所など関係者と正式な契約を交わさなずビジネスをしていることだ。多くの弁護士が、所属事務所と何も契約を交わさずに働いており、報酬の配分も阿吽の呼吸で決まるらしい。契約審査のプロである弁護士が自身は契約をしないというのは、ちょっと意外だ。
今回改めて感じたのは、資格保有者の実態は意外とわかっていないということだ。多くの弁護士・税理士と付き合いのある私でも、今回ゆっくり飲んでみて色々な発見があった。ましてや世間一般の人にとって、資格保有者の実態は謎に包まれているのではないだろうか。
弁護士・税理士・中小企業診断士ともに学生・社会人に人気の資格だが、実態がわからないのに人気を集めているのはどうしたものだろうか。資格予備校や資格紹介本のイメージ戦略が功を奏し、「資格を取れば、人生うまく行く」という幻想が膨らんでいるということだろう。資格保有者としては複雑な心境だ。
(2019年4月15日、日沖健)