昨日2月3日は節分の日。節分と言えば、昔は豆まきだったが、最近は恵方巻き。ところが今年は、恵方巻きに強烈な逆風が吹いている。
農林水産省は先月、売れ残った商品が大量に廃棄される状況が見られるとして、作りすぎを控えるよう業界団体に要請した。関西大の宮本勝浩名誉教授の試算によると、廃棄される恵方巻きが全国で約10億円分に上るという。ネットやメディアでは、時ならぬ恵方巻き批判が巻き起こっている。
そもそも恵方巻きの消費が頭打ちになっているようだ。博報堂生活総合研究所の調査によると、「1年以内に恵方巻きを食べた」という人は、平成28年の54.0%から平成30年は51.6%に減少した。特に20代では、平成28年の47.5%から平成30年には40.7%まで大きく落ち込んでいる。
関西の限られた風習だった恵方巻きをセブンイレブンの広島・舟入店が「恵方巻」と名付けて販売したのが1989年、コンビニ各社が大々的にキャンペーンを打ち全国的に知名度が高まったのが1998年。恵方巻きは正式な誕生から30年、全国デビューから21年が経って、バレンタインデーやハロウィンのような国民的行事として定着するか、「平成の流行」で終わるのか、岐路を迎えている。
恵方巻きに急ブレーキがかかったのはなぜだろうか。
まず、日本人は太巻き寿司をそれほど好きではないという事実がある。寿司といっても握り寿司ほど美味しいわけではないし、おにぎりのように食べやすいわけでもない。太巻き寿司は、日本の食卓ではあくまで脇役だ。脇役を主役に仕立てようとしたところに、かなり無理があった。
次に、コンビニやスーパーの猛烈プッシュが消費者の反感を買っている。バレンタインデーはモロゾフが、ハロウィンは東京ディズニーランドが仕掛けたが、大々的に広告を打ったわけではなく、自然発生的に全国に広がった。一方、恵方巻きは、小売店が閑散期の2月に何とか目玉商品を作りたいという思惑があまりにも露骨で、素直に応援できない。今回、大量廃棄問題がこれだけ騒がれているのは、消費者の反感が底流にあると思う。
あと、日本国民、とくに関東人は関西人のことが嫌いという点も大きい。関西人は、「関西ではずっと昔から恵方巻き食べとるんやで!」と恵方巻きが関西発のブームであることを強調する。世の中には、とにかくブームに乗っかりたいという人もいるが、他人に遅れてノコノコとブームに乗ることを良しとしない人も多い。嫌いな関西人から「俺たちに続け!」と言われて、関東人は引いてしまう。
以上の分析から、恵方巻きが国民的行事に成長するためには、次のような改革が必要だ。
まず、巻物という枠を外して、もっと食べやすく、もっと親しみやすいものに拡張するべきだ。恵方おにぎりでも良いが、保存できて廃棄問題の心配がないもの、たとえば、フォーチュンクッキーにちなんで恵方クッキーはどうだろう。
関西色を薄めるためには、こうした新バージョンが全国各地から登場することが望ましい。静岡から恵方シラスおにぎり、軽井沢から恵方クッキーという具合だ。理由はなんとでも後付けすれば良い。シラス漁の漁師がおにぎりを食べて漁の無事を祈ったとか、天皇陛下と美智子妃殿下がテニスコートでクッキーを食べた(かも?)とか。
全国にご当地の「恵方○○」が続々と生まれて競い合えば、消費が増えて地域も活性化する。AKBのコピーが全国各地で、さらに世界各地に生まれたように、国民的行事どころか世界的イベントに発展するかもしれない。
平成に生まれ、平成の終わりと時を同じくしてたそがれを迎えた恵方巻きがこれからどう巻き返すのか、注目して見ていきたい。
(2019年2月4日、日沖健)