大坂なおみCM問題で2つの残念

 

先週、テニス全豪オープンで大坂なおみ(敬称略)が見事に初優勝し、日本中が大いに盛り上がった。一方、海外では、大坂がスポンサー契約を結んでいる日清食品が「カップヌードル」のアニメ広告動画で大坂の肌を白く描いたことが大騒ぎになった。

 

この広告アニメ動画は、人気漫画『テニスの王子様』(作者・許斐剛)とのコラボ映像で、錦織圭、大坂らがアニメになって登場しているが、大坂の肌は白く描かれ、髪の毛の色も金髪にされていた。今月11日に日清食品が公式サイトのカップヌードルのページで公開されたが、海外メディアからの批判を受けて23日に同映像を削除した。

 

今回の事件で残念なことが2つある。

 

一つは、もちろん、批判の対象になっている白人至上主義だ。今回の日清食品だけでなく、化粧品やファッションのCMでは、たいてい白人のモデルが登場する。当事者に差別という意識はないだろうし、国民も当たり前のようにそういうCMを受け入れている。それだけ、白人至上主義が根深く日本人の心に浸透しているということだろう。

 

先週21日は、人種差別の撤廃を訴えたキング牧師の記念日だった。キング牧師が1963年に有名な「I have a dream」演説を行ってから55年が経つ。世の中が変わっても、世代が変わっても、差別意識は残り続けるようだ。日本は、ヘイトスピーチで世界から「人種差別に寛大な国」と批判を浴びており、国を挙げて人種差別の問題に取り組む必要がある。

 

もう一つ、経営コンサルタントの立場から残念なのは、こういう問題CMを事前に阻止できず、公開されてしまったことだ。日清食品ほどの大企業で一担当者が独断で問題を起こすことはありえない。企画・発注・制作・承認・公開というプロセスで広告代理店を含めて何十人もが関わっただろう。コンプライアンス担当部署もチェックしたはずだ。

 

日清食品は、今回の件を「不注意」と釈明している。しかし、イスラム圏で豚肉を使わないカップヌードルを展開するなどグローバルビジネスに精通した同社で、多くの関係者が誰一人として「おかしい」と思わなかったとは考えにくい。おそらく何人かが「おかしい」と思ったが、誰も「止めましょう」と口に出さなかった、というのが実態であろう。

 

「おかしい」と思ったのに「止めましょう」と言えなかった関係者の心理は、以下のようなものだと推測する。

 

「大坂なおみが大活躍しているベストのタイミングで国民も社内も盛り上がっているのに、水を差すのは無粋だ」

 

「自分が下手なことを言ってCMが中止になったら、逆に『お前のせいで広告予算をドブに捨てることになった』と批判されてしまう」

 

「他の担当者も問題ないと考えているようだから、責任者でもない自分はおとなしくしていよう」

 

関係者に差別しようという意図はなく、何となく企画し、何となく制作し、何となく承認し、問題案件をフワッと世に出してしまった。ここに、集団が空気に支配されて何となく大事なことを決めてしまう、日本の組織の意思決定プロセスの致命的な問題がある。

 

今回の件で、日清食品はどういう社内処分を下すだろうか。たくさんの関係者が関わり、誰が悪いとは特定しにくいので、おそらく広報部門の責任者や企画担当者が厳重注意を受ける程度で「一件落着」だろう。

 

こうした過ちを繰り返さないためには、なあなあで済ましてはいけない。誰かが責任を持って決める、決めたことが成功したら責任者を高く評価する、失敗したら低く評価する、問題が発生したら厳しく処罰する、という当たり前のことを徹底するべきだ。

 

と企業の経営者やマネジャーに話すと、「そういうアメリカ的なドライなやり方では人間関係が荒んで、組織の雰囲気が悪くなってしまう」と反論されることが多い。日本の組織の意思決定を変えるのは、なかなか容易ではなさそうだ。

 

(2019年1月28日、日沖健)