成人式で考えること

 

今日1月14日は成人式。私事だが、長女がこれからご近所の横浜アリーナで行われる成人式に臨む。新成人の皆さんには、良い門出の日にしてほしいものである。

 

長女が楽しみしている様子を見て書くべきかどうか迷ったが、私は成人式に批判的だ。

 

横浜アリーナには横浜市内の新成人が集まり、午前・午後の2部制で開催される。成人式という行事自体が日本独自のものなので、世界最大の成人式だろう。何万人もの若者が着飾って集まり、写真を撮り、退屈な挨拶を聞き、酒を飲んでバカ騒ぎする。挨拶があることを除くと渋谷のハロウィンと本質は同じで、なんとも微妙なイベントだ。渋谷のハロウィンは猛烈に批判されているのに、成人式への批判が少ないのは、ややバランスを欠く。

 

成人式で振袖を着ることには、さらに批判的だ。「これから自立した大人になります!」と誓う新成人が、何十万円もする振袖の費用を親から出してもらうのは、まったく矛盾している。スーツとか実用的なものならまだしも、一生に一度しか着ないものに大枚をはたくとは、日本人もずいぶん気前が良くなったものだ。貧しい家庭にとっては、振袖の費用をどうねん出するか、頭の痛い問題に違いない。

 

ところで、横浜アリーナの成人式と言えば、1年前、予約した振袖が当日届かないという「はれのひ事件」が起こり、世間を騒然とさせた。大量に注文を取って代金を集めて逃亡というのは、典型的な詐欺である(逮捕は別の容疑らしい)。しかし、はれのひという悪徳業者の個別の問題と片づけてはいけない。

 

我が家でも長女が大学に入学すると同時に、各社から電話やDMで猛烈な営業攻勢を受けた。日常生活で着物を着る習慣がなくなり、成人式は着物業界にとって残された数少ない市場だ。少子化で新成人の数が激減していることから、各社とも猛烈営業で一刻も早く顧客を囲い込もうということだろう。

 

しかし、苦境を打開しようとなりふり構わず猛烈営業し、消費者から敬遠され、業界全体の信用を失うというのは、衰退する業界の典型的なパターンだ。「市場が縮小しているから、そうするより仕方ない」で済まされない、着物業界の根本的な問題である。

 

戦後、国民の洋装化で需要減少に直面した着物業界は、成人式に目を付け、成人式に着物を着るという新しい習慣を作り出し、巨大な需要を創造した。モロゾフがバレンタインデーにチョコレートを贈るという習慣を作り出したのと並ぶ、日本での需要創造型イノベーションの代表的成功例と言えよう。

 

今回も着物業界は、猛烈営業に走るではなく、需要創造で苦境を打開できないものだろうか。若い世代では、浴衣を着て夏のイベントに行くのがちょっとした流行だという。外国人観光客には、京都で着物を着るのが大人気だ。知恵を絞れば、こうした需要創造のチャンスはまだまだたくさんありそうだ。

 

1年半前、私は家内に「こんなに早く代金を払って業者が倒産したらどうするの?」と話したところ、家内から「娘のサイズに合う振袖が少ないから、早めに注文するんだ。ガタガタうるさいこと言うな!」と猛反発を受け、険悪になった。が、はれのひ事件の後は「あなたの言うことにも一理ある」となり、夫婦関係は辛うじて改善した・・・。

 

悲喜こもごもの成人式。私のような批判があってもこれからも長く続いて行くのか、注目していきたい。

 

(2019年1月14日、日沖健)