先週1月2日、全国大学ラグビー選手権の準決勝で、10連覇を目指していた帝京大学が天理大学に敗れた。
学生スポーツは選手が卒業して入れ替わるので、戦力を維持して連覇するのは容易ではない。とくにラグビーは、15人という多人数で戦うチーム競技なので、1人や2人スター選手がいるだけでは勝てない。帝京の前は同志社大学の3連覇が最長だったから、今回敗れたとはいえ、この競技で常勝チームを作り上げた岩出監督の手腕は見事という他ない。
ところで、今回の帝京の敗戦については、「これだけ勝ち続けたら、いつかは負けるでしょ」ということで、ネットなどではあまり原因は議論されていない(当然、専門誌や帝京大学自身は分析・振り返りをしているだろうが)。
私はラグビーの技術的なことはわからないが、一点、ラグビー日本選手権の仕組みが変わったことが、今回の帝京の敗退に大きく影響しているという気がする。
1960年に始まった日本選手権は、3年前まで学生チームと社会人チームが争っていた(一発勝負またはトーナメント)。しかし、2003年にトップリーグが発足し、プロ化した社会人とアマチュアのままの学生との戦力・技術の差が大きく広がったことなどを受け、2017年から学生チームは参加できなくなった。
帝京大学は、大学選手権を3連覇したあたりから、「打倒社会人」を目標に掲げてシーズンを戦うようになった。当たりの強い社会人に力負けしないように、医学部とも連携して徹底的に体力強化に努めた。学生リーグが行われているシーズン中でも、主力選手に日本選手権を見据えてトレーニングさせたりした。
ところが、2017年以降「打倒社会人」という目標はなくなり、2017年は「大学選手権9連覇」、2018年は「大学選手権10連覇」、つまり学生チームに勝つことが目標になった。すると、不思議なことに他校との体力差が一気に縮まり、ブレイクダウン(ボールの争奪戦)で相手を圧倒できなくなり、苦戦が目立つようになった。昨年の明治大学との大学選手権決勝は、20対19という辛勝だった。今シーズンは春から敗戦が目立っていた。
あくまで推測だが、以前は「打倒社会人」という高い目標があったので、極限に迫るトレーニングを積むことができた。しかし、すでに何度も勝っている学生を相手に勝つという緩い目標では、自分を追い込むことができない。帝京は、目標が下がったことでトレーニングの質が落ち、他校の追い上げもあり、低い目標すら達成できなくなってしまったのだろう。
ラグビーだけでなく、個人の生活でも、ビジネスでも、適切な目標を立てることが大切だ。適切な目標があれば、それに向けて懸命に努力するので、成功を手に入れることができる。不適切な目標だと、「何がなんでも達成したい!」というモチベーションが湧かず、活動レベルが低下してしまう。
適切な目標とは何だろうか。コンサルタントの世界では、SMARTが大切だとよく言われる。SMARTとは、Specific(明確)・Measureble(測定可能)・Achievable(達成可能)・Relevant(関連性)・Time-bound(期限)の略である(Rについては色々なバージョンがある)。
このうち最も大切なのは、Achievable(達成可能)だ。そこらの学者が「今年中にノーベル賞を取る」といったあまりに挑戦的な目標を掲げると、「できっこないよな」となる。一方、太り気味の人が「今年は体重の増加を10キロ以内に抑える」というあまりに簡単な目標だと「達成しても意味がないな」となる。目標は、適度に挑戦的で、適度に実現可能でなければならない。
このお正月に多くの方が今年の目標を立てたことだろう。本格的に1年のスタートを切るにあたり、目標が適切かどうかを是非とも確認して欲しいものである。
(2019年1月7日、日沖健)