ゴーン氏逮捕で5つの“残念”

 

日産カルロス・ゴーン会長(以下ゴーン氏)の逮捕が国際的に波紋を広げている。事件の背景・動機、示唆、悪影響については、オピニオンサイトiRONNAからの依頼で「ゴーン氏の不正を見逃した監査法人は責められるべきか」を逮捕翌日に大慌てで書いたのだが、改めて経営コンサルタントという立場から今回の事件で感じたことを整理してみたい(一部、サイトの記事と重複する)。

 

ゴーン氏逮捕の感想は、ひと言「残念」。以下「残念」なことが5つある。

 

第1の「残念」は、ゴーン氏という世界的経営者が公私混同をしていたことだ。

 

同族の中小企業では公私混同は日常茶飯事だが、高度な公共性が問われる上場企業でここまで派手に公私混同するのは珍しい。公私混同で大手上場企業のトップが取締役会で解任されたというと、1982年の三越事件の岡田茂元社長を思い出す。超一流の経営者と評価されていたゴーン氏が中小企業のオヤジや悪名高い岡田茂元社長と同レベルだったというのは、企業経営に携わる者としてやるせない。

 

第2の「残念」は、西川(さいかわ)社長ら日本サイドの経営陣の無責任かつ功利的な行動だ。

 

社外取締役を含めて取締役は、経営者を監視・監督する注意義務がある。ところが西川社長らは、長年ゴーン氏の暴走を見逃し、是正に向けて働きかけなかっただけでなく(としか見えない)、ゴーン氏を排除して日本側に経営の主導権を取り戻すチャンスと捉えて行動した。取締役の本来の義務を放棄したと疑われる今回の行動は、日本企業のコーポレートガバナンスのあり方に大きな禍根を残しそうだ。

 

第3の「残念」は、ゴーン氏の過去の功績まで否定されてしまうことだ。

 

今回、逮捕の容疑だけでなく、「従業員や系列を切っただけでしょ」とゴーン氏の改革を否定する意見が出ている。しかし、従業員・系列を切ることはできても、残った従業員のモチベーションや品質・供給体制を維持するのは容易でない。バブル崩壊後、日本企業はリストラに取り組んだが、単なる延命措置に終わり、競争力を向上させた例は少ない。希少なリストラの成功例が否定されるのは、コンサルタントとして納得できないところだ。

 

第4の「残念」は、外国人経営者が否定されてしまうことだ。

 

今回、「やっぱり外国人経営者は日本では通用しない」という主張が出ている。たしかにソニーや日本板硝子でも、外国人経営者はうまく行かなかった。ただ、1999年に日産がゴーン氏を迎えたのは、日本人経営者の馴れ合い経営では末期的な状況を打破できないと判断したからだろう。グローバル化の時代に経営のグローバル化は避けて通れない課題であり、ゴーン氏逮捕でこの流れが逆流しないよう期待したいものである。

 

第5に、個人的に最も「残念」なのは、経営者という職業の魅力が低下してしまうことだ。

 

今回、ネットでは「ゴーンって強欲でサイテーなヤツ」「経営者なんて、たいてい悪い事しているでしょ」といった声が氾濫している。ゴーン氏や同じく有価証券報告書虚偽記載でムショ入りしたホリエモンらによって、経営者は国民から軽蔑される存在に成り下がってしまった。現在、日本では起業家の数がまったく少ないが、経営者を目指す若者がいよいよ絶滅してしまうことを危惧する。

 

以上がコンサルタントから見た今回の事件の「残念」だが、最も残念に思っているのは、日産の従業員であろう。ゴーン氏の指導の下、血を流すリストラに耐え、「よし復活したぞ」と思ったら信じていたゴーン氏に裏切られ・・・。事件が今後どう展開するか不透明だが、日産の従業員に悪影響が及ばないよう切に願う。

 

(2018年12月3日、日沖健)