このところ、東京株式市場がにわかに活気づいている。今年は8月まで貿易摩擦問題などを受けて低調だったが、9月14日、5月以降4度に渡って上値を抑えられてきた23,000円の節目を突破すると、その後買いが勢いを増し、先週金曜日は24,000円を超えた。よくテクニカル分析(チャートを使った分析)では「保ち合いを上(下)放れると上昇(下落)が加速する」と言われるが、まさにセオリー通りの展開になっている。
ということで、今回はテクニカル分析が威力を発揮したのだが、投資の世界ではテクニカル分析は概して評判が悪い。多くの専門家が「チャートなんてクソの役にも立たない」「テクニカル・アナリストは現代の呪術師」などと否定している。世界一の投資家であるウォーレン・バフェットは、チャートを一切見ないことで有名だ。
テクニカル分析は役に立つのか、立たないのか。判断が難しいところだが、個人的にはテクニカル分析はかなり有用で、重要だと思う。なぜなら、好き嫌いはともかく大半の投資家がチャートを見ており、見れば何がしかチャートから影響を受けるからだ。その影響を無視して自分本位で投資をするよりも、チャートを見る他の投資家の心理や投資行動を考慮して柔軟に投資する方が、はるかに良い成果が得られるはずだ。
もちろん、テクニカル分析を盲信するのも良くない。「相場には3つの坂がある。上り坂、下り坂、まさか」と言われるように、相場は過去と同じ動きをしないから、テクニカル分析を頼りに投資すると、ときおり手痛い目に遭う。全否定せず、頼り切らず、ほどほどにお付き合いするべきだろう。
テクニカル分析のように、世の中には完璧ではないが、ある程度は有効というものが多い。
たとえばMBA。ミンツバーグが「MBAホルダーがアメリカをダメにした」、遠藤功が「日本にMBAはいらない」と痛烈にMBAを批判している。たしかに、MBAで経営のロジックや基本技法を教えてくれるだけなので、MBAを取っても会社を経営できないし、イノベーションは生まれない。しかし、ロジックや基本技法を習得したその先に会社経営やイノベーションがあるわけだ。MBAは完璧ではないが、人脈形成を含めて学ぶ価値は大きい。
Googleなどのシステムもそうだ。上司から見た部下もそうだろう。完璧な部下も全くダメもな部下もまれだ。
テクニカル分析など技法、MBAなど制度、Googleなどシステム、そして部下、これら「完璧ではないがそこそこ有効」というものとどう付き合えば良いのだろうか。
まず、完璧ではないからといって全否定することも、逆に全面的に依存することも慎まねばならない。技法・制度・システムとほどほどの距離感で向き合うという冷静さが大切だ。
そして、その技法・制度・システムの内容を正確に理解し、メリットとデメリットや限界を確認する。たいていの技法・制度・システムには有効な場面と有効でない場面があるから、どういう場面で使うのかを検討する。主体的に技法・制度・システムを使いこなすようにする。たとえばテクニカル分析は、相場が安定的な時期には有効だが、大きなイベントやリーマンショックのような想定外の事件によって相場が不安定な時期には有効でない。
自分が使っている技法やシステム、関わっている制度・人を総ざらいし、適切な関わり方をしているかどうか、確認してみてはどうだろう。
(2018年10月1日)