就活ルール廃止で日本の雇用が変わる

 

先日、経団連の中西宏明会長は、面接などの解禁日を定めた採用活動の指針を廃止する意向を示した。採用活動の指針、いわゆる就活ルールについては、近年、指針を守らない企業や通年採用を実施する企業が増え、形骸化していた。中西会長は記者会見で、就活ルールについて、「時代に合わないし、経団連が日程を采配するのには違和感がある」と述べた。

 

先週10日には大学や短大などで構成する就職問題懇談会が経団連の新方針に反対意見を方明するなど賛否両論あり、どうなるか予断を許さない。ただ、実際に就活ルールがなくなると、企業・学生が対応を迫られるだけでなく、日本の雇用のあり方を大きく変える可能性がある。就活ルールが廃止になった場合の影響について考えてみよう。

 

今回、長く続いてきた就活ルールを廃止しようという背景には、労働市場のグローバル化がある。欧米ではもちろん、日本でも外資系企業や経団連に加盟していない新興企業は、通年採用で新卒・既卒に関係なく優秀な人材の確保に努めている。グローバルな労働市場で優秀な人材を確保しようとすると、自ずと自由競争に向かって行く。

 

企業にとって採用の自由度、学生にとって就職の自由度が増すのは、基本的には良いことだ。とくに、多くの日本企業は就活ルールに縛られて人材獲得競争で苦戦を強いられてきたが、就活ルール廃止で外資系企業・ベンチャー企業と同じ土俵で戦えるようになる。

 

ただし、自由競争には弊害もある。最大の懸念は、若年層の失業増加だ。

 

本来、企業は必要な人材を必要なときに必要な数だけ雇いたい。将来を見越してスキルの低い新卒者を雇い、時間・金・手間を掛けて教育訓練する(そしてわずか数年で相当数が早期離職してしまう)新卒一括採用よりも、即戦力を必要なときに雇用する中途採用の方が、合理的だ。企業にとって理想は、中途採用なのだ。

 

現在日本では新卒一括採用が主流で、大手企業は中途採用だけでは必要な人材を十分確保できないので、新卒者を多めに囲い込む。しかし、もし新卒一括採用が崩壊し、中途採用で経験者を採用できるようになったら、慌てて新卒者を囲い込む必要はなくなる。中途採用が主体の労働市場では、スキルの低い若年層がはじき出され、若年層の失業が増える。

 

日本における若年層の失業率は現在4%で、OECD加盟国で最低だ。中途採用が主体の欧米諸国では、軒並み10%を超え、スペインは38%、ギリシャは43%に達する(つい最近まで50%超)。就活ルール廃止、新卒一括採用の崩壊が現実になったら、日本でも確実に10%を超えるようになるだろう。

 

若年層の失業には、失業手当の負担増、治安の悪化など色々問題があるが、最大の問題は労働者のスキルが向上しないことだ。日本では、新卒者はとにもかくにもどこかの会社に就職する。就職すると、仕事の経験や教育訓練を通してスキルが磨かれる。20代はビジネスパーソンとして最も成長する時期であり、若年層のほぼ全員が継続的にスキルを磨いていることが、日本の競争力の源泉になっている。就活ルール廃止は、日本の人的資源を劣化させる危険性があり、由々しき事態だ。

 

だからといって、時代に逆行して就活ルール・新卒一括採用を維持するのは得策ではない。就活ルールがあると、優秀な人材は外資系企業、さらには外国企業に流れて、日本企業の競争力が低下してしまう。就活ルールを廃止しても維持しても、日本企業には厳しい未来が待ち受けているわけだ。

 

対策としては、補助金などで企業の若年層雇用を支援する手もあるが、失業率増加は不可避と受け止め、会社以外での教育訓練機会を充実させるべきだ。現在、厚生労働省など公的機関が職業訓練を実施しているが、内容が貧弱だし、製造業に偏重している。資格予備校や社会人大学院など民間の教育訓練機関が増えてきたが、まだ大都市圏にしか普及していない。20年先、50年先を見据えて、社外の教育訓練機会を思い切って充実させる必要があるだろう。

 

(2018年9月17日、日沖健)