このたび『独立する! 中小企業診断士 開業のコツ60』と題する書籍を刊行した。中小企業診断士が社会人の人気資格、コンサルタントが学生の人気職業になったことから、中小企業診断士やコンサルタントに関する書籍をよく見かけるようになったが、受験勉強の方法やコンサルタントの活動を紹介するものがほとんどだ。それに対して本書は、独立開業の決断の考え方やクライアントの開拓方法といった独立開業希望者が本当に知りたいことを解説している。
本書を執筆した直接の動機は、2005年から今日まで教えている中小企業大学校の中小企業診断士養成課程などで、受講者(≒中小企業診断士)から独立開業について色々と質問を受けてきたことだ。一生に一度あるかないかの独立開業、当然、誰しも不安を覚える。最大の不安、そして疑問は、「どう決断すれば良いか?」「コンサルタントとして食べていけるか?」「顧客をどう開拓すれば良いのか?」という点だ。本書は、実際に私に寄せられた60の質問と私の回答で、こうした疑問にズバリ答えている。
また本書は、独立開業に成功した5名の中小企業診断士(瀬戸正人・平井彩子・畑中修司・法野昌則・高原彦二郎)へのインタビューも掲載している。彼らにインタビューして分かったのは、コンサルタントは意外と無計画に独立開業に踏み切っていることだ。ものの弾みや勢いで「独立しちゃいました」とか、明確な当てもなく「どうしてもやりたいと思いまして」というケースが結構多い。実は私もそのクチである。
コンサルタントは、常日ごろクライアント企業に対し「経営の基本はPDCA(Plan・Do・Check・Act)。ち密な計画(Plan)を作りましょう!」とアドバイスをしている。当然、クライアントは「先生ご自身も、計画を練りに練って、準備万端で独立開業したんですよね?」と思っているに違いない。しかし、実態は異なるのだ。
考えてみれば当然だろう。つい昨日までサラリーマンをしていた人間が「コンサルタントを始めました、中小企業診断士を持ってますよ!」と言っても、コネ以外で仕事を注文してくれる客はまずいない。企業経営についてしっかり勉強した中小企業診断士が真剣に自分の事業を計画すると、売上はほとんど見込めず、「やはり食べていけなさそう」と独立を諦めるわけだ。実際に独立開業した中小企業診断士は、合理的に思考しているわけではない。
合理的に考えれば、独立開業をせずにサラリーマン生活を続けた方が、人生安泰だ。にもかかわらず独立開業に踏み切るのは、ものの弾みや勢い、あるいは「儲からないかもしれないけど、どうしてもやりたい!」という何かがある場合だろう。いずれにせよ、コンサルタントの独立開業は、非合理的な決断なのだ。
ただし、無計画に独立したからといって、開業後も風任せでいい加減に取り組んでいるわけではない。成功者は例外なく、顧客開拓や自分のスキルを高めるために、人一倍の努力をしている。では、どういう努力をしているのか。こちらはぜひ本書を手に取ってお読みいただきたい。
独立開業というと、清水の舞台から飛び降りるという印象があるかもしれない。しかし、真実は「やりたいことがある、よしやってみよう。ダメだったらサラリーマンに戻れば良い」というくらいの軽い“ノリ”である。夢と希望を持った中小企業診断士が本書を読んでぜひ軽い“ノリ”で独立開業に挑戦して欲しいものである。
(2018年7月23日、日沖健)