近年、日本企業の不祥事が頻発している。タカタがエアバックのリコール案件を放置(2015年)、旭化成の子会社の旭化成建材が地盤調査データを偽装(2015年)、三菱自動車が自動車の燃費性能データを偽装(2016年)、神戸製鋼所が鋼材性能データを偽装(2017年)、日産自動車が無資格者による法定検査を実施・隠蔽(2017年)など、次々と問題が発覚した。また先週、三菱マテリアルでは、品質データ改ざん問題を受け竹内章社長が引責辞任した。企業ではないが、日本大学の危険タックル事件が世間を騒がせている。
不祥事が起こったら、当然、原因を調べ、対策を打つ。社内調査だけではお手盛りなってしまうので、普通は、弁護士など外部専門家で構成された第三者委員会による調査が行われる。
ただ、調査報告書を見ると、各社でそれほど大きな違いがあるわけではない。各社とも、顧客軽視・内向き志向、自由に意見を言えない風土、セクショナリズム、隠蔽体質といった原因が指摘されている。原因が同じだから、それを受けた対策も「コンプライアンス教育の実施」「ホットラインの設置」など似通ったものになる。
報告書に書かれたことが間違っているわけではない。ただ、その後、報告書が勧める解決策を実行して問題が解決し、組織が問題発生前よりも飛躍的に良くなる企業もあれば、表面的・一時的な解決に終わり、繰り返し不祥事が発生する企業もある。前者の代表例は、2002年の食品偽装事件から蘇った日本ハム(今年、役員のセクハラ事件で味噌を付けたが)、後者の代表例は三菱自動車である。この違いは、どこから生まれるのだろうか。
ここでわれわれは、不祥事が起きた直後の対応に注目する必要がある。不祥事の原因は各社ほぼ同じだが、事件直後の対応は実に大きく異なるからだ。
不祥事から甦り、発展する企業は、まず①経営陣が誤りを率直に認める。つづいて②会社が存亡の危機にあることを社内に宣言する。そして、③改革に向けた社内の検討を始める。この①②③を、第三者委員会の調査結果を待たず1~2か月で迅速に実行する。
一方、不祥事への対応が単なる鎮火作業に終わり、繰り返し問題が発生する企業は、その逆だ。①動かぬ証拠を突き付けられるまで経営陣が誤りを認めず、②「伝統・信用があるから会社が潰れることはない」と社内に宣言し、③第三者委員会の報告を待って重い腰を上げて対応し始める。
組織論の大家ジョン・コッターは、組織全体が「いま変わらなくては!」という危機意識(sense of urgency)を持つかどうかが組織変革の最大のポイントだと指摘する。危機意識を持てばスムーズに改革が進むが、危機意識がないと改革はとん挫する。そして、危機意識は時間とともに急速に薄れていく。
不祥事の原因を分析すると決まって「硬直化した組織風土が原因」「隠蔽体質が問題」という議論になり、「風土」「体質」と口にした瞬間から「風土や体質は簡単に変えられない」と議論が尻すぼみになる。しかし、上記の①②③は、風土・体質がどうであれ、経営者の考え一つで実践できることだ。調査報告書が風土・体質を問題提起するのを待たず、鉄が熱い内に変革に向けて行動することが大切だ。
コンプライアンスという言葉が2000年頃に日本に導入されてから、かれこれ20年近くになる。しかし、上記のような議論はあまりなく、不祥事が繰り返されている。原因究明よりも直後の対応に注目が集まり、日本企業の真の改革が進むことを期待したい。
(2018年6月18日、日沖健)