政府の働き方改革を受けて、副業が注目を集めている。日本企業は社員の副業を禁止することが多かったが、今年になって副業を認める動きが広がっている。今年は「副業元年」なのだそうだ。
私も企業に勤務している中小企業診断士(いわゆる企業診断士)からよく副業について相談をいただく。質問は大きく2種類。「スキルアップのために副業でコンサルティングをしたいが、どうか?」「将来コンサルタントとして独立開業したいので、事前準備として副業でコンサルティングをした方がいいか?」
私の答えは、「スキルを上げて会社の中で良い仕事をしたいなら、やるべきです」「コンサルタントとして独立開業したいなら、やめるべきです」。
一般にビジネスパーソンの能力・スキルは、一つの職場で同じ業務を繰り返すよりも、複数の職場で色々な業務を経験する方が向上する。他社の経営を見ることができるコンサルティングは、ビジネスパーソンにとって最高の学習機会だ。副業によって能力・スキルが高まり、その成果を会社に還元すれば、自分にとっても会社にとってもプラスになる。
しかし、コンサルタントになるという場合、話は異なる。平日夜や土日しか相談できないコンサルタントはクライアントにとって実に不便で、副業では大した活動ができない。副業でコンサルティングの真似事をしても、独立開業後に食べていくためのスキルは身に付かない。また、独立開業後の顧客確保を目的に勤務先の関係者にコンサルティングをすると(フライング営業!)、勤務先との関係が悪化する。勤務先やその関係者は、コンサルタントにとって最重要な人脈であり、副業が独立開業後の活動を制約することになりかねない。
ということで、コンサルタントを目指す企業内診断士には副業をお勧めできないのだが、コンサルタントというやや特殊な職業を別にすると、昨今の副業ブームは歓迎するべき変化と言えよう(もちろん、過労など解決すべき問題は多いが)。
ただ、副業が話題になる一方、同じく別の仕事をするのに転職、わけても中高年の転職があまり注目されていなのは、個人的には残念なことだ。
定年が60歳から65歳になり、近い将来70歳以上に引き上げられる。一方、企業は管理職の若返りを進めており、50歳半ばで役職定年を迎える(銀行は50代前半)。役員になれない大半の従業員には、10~15年の長い“企業内隠居生活”が待っているわけだ。役職定年でそれまで課長・部長だった人が平社員に降格し、年下の上司に命令されて単純業務に嫌々取り組むのは、なんとも切ない隠居生活ではないか。
だったら役職定年を待たず、40代で転職するのはどうか。40代にもなれば、その企業での出世競争の勝負はついている。40代ならまだ体力も気力も旺盛で、新しい勤務先でやり直すことは可能だ。役員になれなくても日本のビジネスパーソンはスキルが十分に高い。とりわけ中堅・中小企業は深刻な人材不足で、40代の転職者を大いに歓迎する(ただし、50歳を超えると転職者の供給が増え、需要が減ることには注意)。
もちろん、転職すると退職金が目減りする、家のローンや子供の学費がかかりリスクを取れないなど、現実には40代の転職には何かと障害が多い。ここは、税制・年金改革など中高年の転職を容易にする政策支援と転職市場の整備が期待されるところだ。
私の知り合いのコンサルタント・Tさんは、尊敬する出光佐三の「ある程度の年齢になったら、世のために仕事をしろ」という教えを胸に、「人生二毛作だ!」と会社を辞めて46歳で独立開業した。出光佐三の教えも素晴らしいが、「人生二毛作」というTさんの考え方も示唆に富んでいる。
「副業元年」も悪くないが、今年はぜひ「人生二毛作元年」となってほしいものである。
(2018年5月14日、日沖健)