各種の国際比較調査によると、日本のビジネスパーソンは職業能力が高いのに、労働生産性は低い。つまり、仕事の進め方が悪いわけだ。現在、働き方改革ということで、残業の削減、会議の短縮・廃止、テレワークの導入といった対策が進められている。こうした中、重要なのに意外と問題視されていないのが、職場内の業務分担である。
日本企業の労働生産性が低いといっても、工場・倉庫・売り場など現場はそれほど低いわけではなく、極端に低いのはオフィスワークである。そして、アメリカと日本のオフィスワークを比較して一目瞭然でわかる違いは、メンバーの業務分担だ。アメリカでは各メンバーに職務記述書があり、メンバー間で明確に業務分担するのに対し、日本では業務分担があいまいである。
たとえば、アメリカの大手銀行の営業部には秘書・庶務を専門に担う担当者がたくさんいて、営業担当者は1人に秘書を1人付けてもらえる。スケジュール調整や書類整理といった業務は庶務担当者がやり、営業担当者は本来業務である営業活動に専念する。それに対し日本では、庶務担当者がおらず、メンバー全員が自分の本来業務と庶務の両方をこなす。
日米どちらが効率的か。アダム・スミスのピン製造の事例やデビッド・リカードの比較生産費説を持ち出すまでもなく、営業担当者は営業活動に専念し、庶務担当者は庶務に専念するのが効率的だ。「全員参加」「チームプレー」というと聞こえは良いが、分業を否定する日本の職場は、経済学の基本原理を無視した異常な組織運営と言えるだろう。
日本企業が経済学のイロハを無視するのはなぜだろうか。
最大の理由は、日本では単純労働と専門労働の賃金格差が小さいことだ。アメリカでは、移民が多いこともあって単純労働の賃金は低い。一方、専門労働者や管理職の賃金は高い。高コストの専門労働者・管理職を有効活用するには、庶務を単純労働者に担当させるのが効率的だ。一方、日本では賃金格差が小さいので、分業しようという誘因が働きにくい。
それでも1980年代まで、日本ではやや高賃金の総合職が専門労働や管理業務を担い、女性が一般職としてやや低賃金で単純作業に従事した。ところが、1986年の男女雇用機会均等法の導入以降、女性を一般職として低賃金で雇用するのが難しくなり、多くの企業が総合職・一般職という区分を廃止した。企業は対策として、派遣社員を導入し、それまで一般職が担当した単純作業を派遣社員に担当してもらうようにした。
しかし、今年4月に派遣労働法が改正され、派遣社員と5年超えて有期雇用契約を結びことができなくなった。これまでのように派遣社員に単純作業を担当させるのも、難しくなっている。こうして日本企業では、管理職まで含めて職場の全員がすべての業務をする傾向がいよいよ強まっている。
分業のメリットを認めるなら、アメリカに倣って単純労働者と専門労働者・管理者で職種と賃金体系を明確に分けるべきだ、単純労働者には職務給を導入する一方、専門労働者・管理者には成果給を導入するのが得策と思われる。
ただ、低賃金の単純労働者と高賃金の専門労働者・管理者が机を並べて仕事するのは、平等を重んじ、格差を忌み嫌う日本ではかなり抵抗感があるだろう。日本企業の生産性向上の最大のネックは平等主義であり、まず社会的に平等主義や格差批判を見直すことから始める必要がありそうだ。
(2018年4月9日、日沖健)