中国の新華社通信によると、中国共産党中央委員会は、「2期10年まで」と決められている国家主席の任期を削除する法案を3月5日開幕の全国人民代表大会に提案するという。習近平国家主席は2013年に就任し、2023年に任期を終えるはずだったが、この法案で任期はなくなり、終身国家主席という独裁者になる可能性がある。
中国は共産党が支配する一党独裁国家だが、「2期10年まで」という規定があったので、独裁者の誕生は阻止されてきた。事実、毛沢東を最後に、中国では強力な指導者は現れなかった。今回の規定廃止で、一党独裁国家で唯一の政党が独裁者に牛耳られる形になる。
中国を除く世界のメディアは、今回の決定を批判的に伝えている。中国は今後これまでのような経済成長は見込めない。当然、庶民の不満は高まり、政権批判も増えてくるだろう。この状況で独裁者が登場すると、庶民への言論統制など締め付けが厳しくなり、中国の民主化はますます遠のいてしまう。
任期延長と言えば、日本でも、安倍首相は自民党の党則で「2期6年まで」と決められていた自民党総裁の任期を延長し、3期9年の長期政権を目指している。また、民間企業でも、三菱重工業の宮永俊一社長は、長く同社で慣例だった任期5年を延長し、6年目に突入する。
このように、政治でも企業でも、トップの在任期間を長期化する動きが注目を集めている。改めて国家・企業などのトップの任期をどう考えるべきだろうか。
トップの任期が長いことのメリットは、①一貫した政策を遂行できる、②強力なリーダーシップを取れる、③長期的な課題、大きな課題に取り組める、という点だ。一方、デメリットは、①人事が停滞する、②腐敗が起こりやすい、③トップが暴走しやすい、という点だ。
多くの実証研究によると、トップの任期の長さと組織のパフォーマンスには正の相関がある。考えてみれば当然の話で、トップがコロコロ変わり、方針が揺れ動くよりも、優れたトップを選んで長く活躍してもらう方が、上記のメリット①②③を享受しやすい。1878年創業のGE(ジェネラル・エレクトリック)は、過去140年間でCEO(最高経営責任者)はたった10人だ。
日本企業では、三菱重工業だけでなく、社長の在任期間が短い。政党や中央官庁も同じだ。これは、上記のデメリットのうち、①人事の停滞を避けるためであろう。つまり、日本の企業・政党・官庁の昇進システムは年功序列制なので、トップがあまり長く続けると、組織全体の人事が停滞し、「ちゃんと数年頑張れば次の役職に上がれますよ」という動機付けの仕組みが崩壊してしまう。
しかし、昨今のグローバル競争・技術の変化を受けて、トップの戦略的意思決定が重要になっている。優れたトップが長く活躍し、改革を進めてもらう必要がある。
もちろん、ダメなトップが長く居座るのが最悪の状態だ。上記のデメリットを克服するには、優れたトップを育成・選抜する仕組みを作るとともに、年功序列型の昇進システムを改める、トップが暴走しないようなガバナンスの仕組みを整える、といった大きな改革が必要だ。
習近平主席は優れたリーダーだと思うが、究極の独裁国家になる中国の将来は大いに心配だ。ただ、他国を心配する前に、トップがコロコロ変わってしまう日本型組織の致命的欠陥を直視するべきだと思う。
(2018年3月5日)