シニア起業に欠けていること

 

企業勤務者が定年を迎えて起業に挑む「シニア起業」がちょっとしたブームになっている。シニアが始めた蕎麦屋が大評判になった、シニアが立ち上げたイベント事務所が地域活性化に貢献している、といった明るい報道をよく目にする。シニアを対象にした起業セミナーがたくさん開かれているらしい。

 

個人差はあるものの、60歳・65歳と言えば、能力も体力も意欲もまだまだ高い。そのシニアが強制的に解雇される定年制は、人的資源の有効活用という点では、実に理不尽な制度だ(ちなみにアメリカでは定年制は年齢による差別で違法)。シニア起業が活発になり、貴重な人的資源が有効活用されるのは、素晴らしいことだ。

 

社会・経済にとっては効果・意義が大きいシニア起業だが、当のシニアにとって良いことかというと、かなり微妙だ。報道のように成功するシニアもいるが、失敗してなけなしの老後資金を失ってしまうケースも多いからだ。バリバリの現役世代でも難易度が高い起業で、シニアが苦戦するのは当然だろう。

 

シニアが起業で成功するには、自分の経験・スキルをしっかり棚卸しする、身の丈に合ったスモールスタートでリスクを抑える、といったことが重要だとされる。しかし、重要だが意外と欠落しているのが、顧客志向だ。

 

ビジネスの起点も中心もあくまで顧客である。顧客のニーズを知り、顧客ニーズに合った製品・サービスを提供し、顧客満足を得ることで事業は発展する。自分の経験やスキルと顧客ニーズがマッチするのが理想だが、それは結果論で、起点・中心はあくまで顧客だ。

 

起業に挑むシニアからは、「企業勤務で培った設計技術を生かして設計事務所をやりたい」「長年の夢だったカフェをやりたい」という希望を聞かされる。自分の強みをいかそう、自分の夢を実現したい、ということで、あくまで自分が起点であり、自分が中心だ。

 

自分の強みを生かそうという意識が強い“できるシニア”ほど、顧客の声を聴かず、「私のこの貴重なスキルを御社でも活用してみませんか?」と自分を押し付けようとする。これでは、現役世代から煙たがられてしまい、事業は成り立たない。

 

私は、コンサルタントとして独立開業したいというシニアからよくご相談をいただく。たいてい失敗するのだが、まれにうまく行く場合もある。うまく行くシニアは、例外なく顧客志向のマインドを持って行動している。コンサルタントにとって顧客志向の行動とは、顧客のことをよく調べる、顧客のニーズに耳を傾ける、顧客ニーズに合わせた解決策を提供する、ということだ。

 

と同時に、顧客志向を実践するためには、新しいこと学び、取り入れることのも大切だ。技術はどんどん進化し、顧客のニーズも変化している。知識・スキルが高いシニアでも学習を怠ると時代遅れになってしまう。成功するシニア起業家は、現役時代よりもたくさん勉強している。

 

日本では、起業と言えば若者ということになっているが、知識・経験、そして人脈のあるシニアの方が、本来、若い世代よりも起業で成功しやすいはずだ。シニアが積極的に起業に挑戦し、顧客志向でよいビジネスを展開し、社会を活性化させ、充実した生活を送ってほしいものである。

 

(2018年1月15日)