スペイン北東部のカタルーニャ州がスペインから分離独立を求める住民投票が1日に行われ、独立賛成が9割に達した。スペイン政府は住民投票を認めておらず、独立阻止へ圧力を強めている。独立が実現するのか、今後の動向が注目される。
一方、(日本ではあまり注目されていないが)イラク北部のクルド人自治政府が分離独立を求めて先月25日に住民投票を実施した。こちらも独立賛成が多数を占めたようだが、政府は住民投票を認めておらず、対立が激化している。
カタルーニャ州にはカタルーニャ族が、クルド人自治区にはクルド人が住む。今回の運きは、ともに民族独立運動である。と同時に、経済闘争の側面も濃厚だ。カタルーニャ州にはスペインで最も繁栄するバルセロナがある。クルド人自治区には大油田がある。ともに、地域の税収を政府に上納し、国内の他地域を支えている。むしり取られるだけでは馬鹿馬鹿しいというのが、独立運動の主たる動機だろう。
民族紛争や国内の地域格差は、世界中どこにでもある話で、今後、こういう動きが世界中で広がるかもしれない。アイルランドやチベットも後に続き、世界中に大国から分離独立した小規模国家が乱立することにならないか。
未来学者ジョン・ネイスビッツは、「二十一世紀半ばに世界の国家の数は千を超える」と予言した。これは当てずっぽうの予言でなく、“グローバルパラドックス”という概念に基づいている。
グローバルパラドックスとは、「世界市場の規模が大きくなるほど、小規模な構成単位が強くなる」という考え方だ。ネイスビッツによると、アメリカ・中国のような大国よりも、シンガポールのような小国の方が有利になる。大企業よりも、中小企業や個人事業主の方が有利になる。
1970年代、米国経済の70%を「フォーチュン500」の企業、つまり米国のトップ500社が占めていた。ところが、最新のデータでは、こうした大企業の米国経済に占める割合は、10%を切るまで減少している。ニュースでは、中国の成長やアマゾンの膨張が話題になるが、世界全体で見ると、大国・大企業の影響力はどんどん低下しているのだ。
引き金はITである。ITの発達によって、情報通信コストが低下し、分散処理が容易になると、小国でも、中小企業・個人でも、あまり不都合ではなくなる。逆に、中央集権国家や大企業は規模の不経済で競争力を失ってしまうのだ。
さて、国家の分離独立というと、個人的に気になるのは沖縄と東京だ。
沖縄は、江戸時代まで琉球王国として長く独立国家だった。人類学的にも、琉球民族を日本民族と別に分類できるとする見解がある。明治維新から戦前にかけて政府が沖縄の併合を強力に進めた結果、現在は、沖縄県民の「琉球人」という意識は希薄になっている。しかし、今後はどうだろう。
沖縄は、太平洋戦争の沖縄戦、戦後の米軍基地問題など困難な歴史を負わされてきて、日本政府に強い不満を持っている。日本政府は琉球民族を少数民族として認めていないが、ユネスコは認める立場だ。いますぐではないが、今後、沖縄で独立運動が一気に盛り上がる可能性があると思う。きっかけは、一つは基地問題、もう一つは中国が内政干渉し、独立を支援することである。
一方、“東京民族”はいないので、東京で独立運動が起こる可能性は、現時点では非常に低い。しかし、ネイスビッツの予言が当たり、国家が千を超えるようになると、民族問題がなくても、経済的な理由で独立を目指すことが世界で一般化しているだろう。東京都や豊田市では、独立運動が起こるかもしれない。
沖縄が独立したら、日本・中国にアメリカや台湾を加えた東シナ海のパワーバランスはどうなるだろうか。東京が独立したら、人口減少と産業空洞化で悩む多くの地方は、どうやって生き延びていくのだろう。
ここまで読んだ大半の方は、「さすがにそれはないでしょ」と一笑に付しているだろう。しかし、向こう50年という単位で考えると、小規模国家が乱立する世界をいかに統治するかは、環境問題やエネルギー問題と並ぶ重要な課題である。
(日沖健、2017年10月9日)