タバコ休憩について考える

 

受動喫煙に対する関心が高まる中、ピアラという中堅企業が非喫煙者に対して年間最大6日の有給を与える制度「スモ休」を導入し、話題になっている。喫煙者は勤務時間中に何度もタバコを吸うために休憩を取るわけで、「タバコ休憩で勤務時間に差が出るのは不公平だ」という不満が非喫煙者から会社側に寄せられていたという。

 

ネット掲示板では、「大賛成」「そこまでやるか?」と賛否両論のようだ。私はこの制度そのものにはあまり関心はなく、「どっちでも良いんじゃないですか」と思う。大半の日本企業では有給消化率が100%に達していないので、有給休暇がさらに与えられても未消化分が増えるだけだ。海外のように有給休暇の買い取りが認められているなら話は別だが、働き方や実質的な休暇日数などほとんど何も変わらない。

 

しかし、この制度の周辺的なところではかなり気になる点があるので、以下考えてみたい。

 

1つ目の気になる点は、こうした意見が出てくる職場風土の変化である。

 

タバコ休憩は今に始まった話ではなく、長く日本の職場の伝統だった。近年は、喫煙者が減少し、職場でタバコ休憩を取る人はむしろ大幅に減っているはずだ。別室でタバコ休憩する分には、受動喫煙の被害もほぼないだろう。にも拘わらず、タバコ休憩がやり玉に上がるのは、どうしてだろうか。

 

もちろん、受動喫煙防止法の制定などでタバコの悪影響に対して厳しい考えを持つ人が増えているという点はあるだろう。ただ、それよりも日本の職場で融和的な人間関係や自分と相容れない他者への鷹揚さが失われてしまったことが大きいという気がする。

 

職場には、頻繁にタバコ休憩をする怠け者や仕事ができない人、協調性に欠ける人がいる。以前なら、職場のメンバーはこうした問題児を「まったくしょうがないなぁ」と笑って大目に見て、手助けをするのが当たり前だった。しかし、最近は、問題児を助ける、大目に見るどころか、こぞって非難・攻撃する。良くも悪くも融和的な人間関係や鷹揚さなくなったのは、日本の職場で大きく変わった部分だ。

 

もう一つ気になるのは、相変わらず時間で労働を管理するという考え方がはびこっていることだ。

 

タバコ休憩をしている間は仕事をしないから、喫煙者の労働時間は非喫煙者よりも短い。ただ、気分転換して仕事を再開したら、返って能率が上がるかもしれない。まったく働かないと成果を出せないが、7時間とか働く状況で、休憩時間の長短と仕事の成果の大小の関係は、実はよくわかっていない。成果を中心に仕事を評価するなら、休憩時間の長さはそれほど大きな問題ではない。

 

労働時間の長さが問題になるのは、工場でのライン作業やスーパーのレジ打ちのような仕事だ。ラインやレジにいる間は仕事をして成果を生み出すので、これらの職種は、労働時間≒成果だ。しかし、大半の職種では、労働時間と成果の関係は不明確だ。知識を創造する仕事では、逆に無能な労働者はうんうん唸っても成果が出ないので労働時間が長く、有能な労働者はさっさと成果を生み出すので労働時間が短い。

 

日本で労働時間の長い短いがことさら重視されるのは、仕事と言えば工場や小売店での作業が主体だった1980年代までの名残りだろう。

 

最近の働き方改革では、長時間労働が問題になっており、「長時間働くのは良いこと」という考え方はなくなろうとしている。ただ、働き方改革では労働時間にもっぱら焦点が当てられており、労働を時間で管理するという考え方は逆に強まっているのではないだろうか。知識社会の現代において、労働時間だけがことさら問題になっていることには強い違和感を覚える。

 

他人が働こうがタバコを吸っていようが、自分には関係ないではないか。少しくらい休憩時間が長かろうが短かろうが、仕事の成果とは関係ないではないか。やたらと他人のことや労働時間のことを気にするのは、企業にとっても働く人にとっても間違っていると思うのである。

 

(日沖健、2017年9月11日)