このたび、『マネジャーのロジカルな対話術』と題するビジネス書を刊行した。職場を管理するマネジャーやそういうポジションを目指す若手・中堅ビジネスパーソンの皆さんに是非お読みいただきたいと思う。
会社に勤務するビジネスパーソンが一人黙々と取り組む仕事は少なく、たいていの仕事は職場のメンバーとの対話によって進められる。良い対話ができていれば、良い仕事ができ、大きな成果を生まれる。対話が不足したり、型どおりの浅い対話だったりすると、大きな成果を生み出すことができない。マネジャーは、自分自身が部下など関係者と良い対話をするとともに、部下同士が良い対話するよう働きかける必要がある。
近年、マネジャーが部下と対話をするのが難しくなっている。プレイングマネジャー化や人員削減で、マネジャーの業務負荷が増えている。短時間勤務・変則勤務・テレワークなどの普及で、部下と時間を共有することが難しくなった。上司との対話を敬遠する若手社員が増えていると言われる。マネジャーからは、「残業を増やさずに仕事を回すのが精一杯で、のんびり対話している暇はない」という愚痴をよく聞かされる。
一方で多くの経営トップが、このところ職場が沈滞気味になっていることに危機感を持ち、マネジャーに部下と対話を深めるよう強く求めている。その時、経営トップがよく問題にするのは、マネジャーの対話に臨むマインドだ。「君たちマネジャーが本気になっていないからいけないんだ。部下の立場になって、部下の心の中に飛び込んでいけ!」とマネジャーにマインドの変革を求める。
対話においてマインドが重要であることは間違いない。マインドが低いマネジャーがたくさんいることも事実だ。ただ、マインドと同じく重要なのにまったく軽視されているのが、対話のスキルである。対話には、質問・論点整理・主張・合意形成といった構成要素があり、それらを適切に行うことによって対話から成果が生まれる確率が高まる。いくらマインドがあっても、こうしたスキルがないと、なかなか対話が深まらない(もちろん、スキルさえあれば良いというわけでない)。
残念ながら、日本では、対話に臨むマインドはかなり強調されているが、ビジネスパーソンが対話のスキルを体系的に学ぶ機会はほとんどない。マネジャーは経営トップから叱責されて、見よう見まねで部下と対話している。本書は「対話術」とあるように、マネジャーを主な対象に、適切な対話の術(スキル)を学んでいただくものである。
では、適切な対話のスキルとは何なのか。本書で強調しているのはロジカル(論理的)であることだ。ロジカルとは、筋道が立っている状態・事象間の構造が明確な状態のことを言う。
職場で我々は、次のようなロジカルでない会話をしがちだ。
課長「営業成績が下がっているけど、どうなんだ?」
担当者「ええ、今月はあまりうまくいきません。来月からしっかりやります。」
課長「そうか、気合を入れて頑張れよ。期待しているぞ」
この会話は、何もしないよりはマシだが、部下に一声かけたという以上の意味はない。課長は、まず営業成績が下がっている状況を具体的な数字で示し、そうなった原因を担当者に訊ね、一緒になって今後の対策を考えていく必要がある。
マネジャーは、演繹法や帰納法を用いて主張・論拠の筋道を提示すると、主張がよく伝わる。原因と結果の筋道を明らかにすると、問題の原因が明らかになる。反証可能性を意識すると、水掛け論はなくなる。MECE(漏れもダブりもない)を意識して論点を整理すると、重要な論点を見逃すことがなくなる。マネジャーがこうしたロジカルな対話スキルを身に着け、実践すると、仕事のあり方・成果が大きく変わっていく。
本書が、マネジャーが部下との対話を見つめ直すきっかけになるようなら幸いである。
(日沖健、2017年3月27日)