森友学園問題の本質は?

 

森友学園問題で今週23日、籠池理事長の証人喚問が行われる。国有地の格安価格での払い下げについて、当初、自民党は野党が求める籠池理事長の参考人招致を「民間人を国会に呼ぶのは慎重であるべき」と拒否してきた。しかし、先週、籠池理事長が「安倍首相から百万円の寄付を受けた」と発言したことを受け、急転直下、証人喚問が行う運びになった。

 

野党は、「問題の本質は国有地の払い下げ。首相が侮辱されたから国会に呼び出そう、というのは筋が通らない」(蓮舫民進党代表や野田前代表)と批判する。一方、自民党も「問題は国有地が適正な価格で払い下げられたのかどうか」(安倍首相や荻生田官房副長官)と、寄付金問題がクローズアップされていることに反発する。対立する与野党だが、奇しくも「国有地の払い下げが本質的な問題」という認識では一致している。

 

しかし、個人的には、国有地の払い下げよりも寄付金の方がはるかに重大な問題だと思う。

 

まず、国有地払い下げ問題は、大事な国の財産を二束三文で売った財務省が“主犯”である。もちろん、籠池理事長も悪いし、彼の要請に基づき安倍首相など政治家が財務省に圧力を掛けた可能性もなくはない。ただ、自民党の政治家が別にそんな危ない橋を渡らなくても、財務省は籠池理事長にすんなり便宜を図ったはずだ。

 

つまり、2014年4月の消費税増税をきっかけに景気が後退し、国民から批判を浴びたことで、財務省は批判の矢面に立った安倍政権に大きな借りを作ってしまった。以来、財務省は、将来の増税に向けて何とか安倍政権に借りを返したい、できれば貸しを作りたいと考えていた。この状況で安倍首相と昵懇の仲の籠池理事長が“安倍晋三記念小学校”を作るという話が来て、これ幸いと便宜を図ったのだろう。

 

危機的な国家財政を省みず貴重な国の財産を安売りした財務省の裁量行政は、厳しく糾弾されるべきだ。ただ、重大ではあるものの、一省庁の問題でしかない。

 

それに対し、寄付金の方は、今後の日本の外交、さらにはアジア情勢を左右しかねない、やっかいな問題だ。

 

第2次安倍政権は、期待されたデフレ脱却・経済再生・財政再建では成果を上げていないが、不安視されていた外交では大きな成果を上げている。対アメリカでは、普天間基地問題を的確に処理し、同盟関係を強固にした。挑発を続ける北朝鮮には毅然と対応してきた。対韓国では、慰安婦問題を恒久的に解決し、関係を深めた。そして対中国では、尖閣諸島問題など難題にうまく対処し、関係を改善した。

 

安部外交、とくに問題児の中国・韓国との関係が驚くほどうまく行ったのは、安倍首相が信条とする右翼思想や憲法改正を表に出さなかったことが大きいのではないか。第1次政権で安倍首相は、拙速に憲法改正に突き進もうとして与党の求心力・国民の支持を失い、2007年の衆院選で大敗し、あえなく退陣した。今回はその反省を踏まえて、「経済優先」を掲げ、自身の信条はぐっと胸の中にしまい込んだ。このことが中韓に安心感を与えたのは間違いない。

 

ところが今回、安倍首相が右翼団体・日本会議の幹部である籠池理事長に寄付をしたとになると、「やっぱり安倍首相は軍国主義者だった」「いよいよ危険な本性を表した」という国際的な評価になる(日本国民の意見はともかく)。とくに、習近平主席が今秋の共産党大会で2期目を目指す中国と5月に大統領選が行われる韓国は、国民の支持を取り付けるために、受けが良い日本叩きに走りやすい。安倍首相の変節は火の手が上がりつつある中韓両国に格好の攻撃材料を与え、火に油を注ぐことになる。

 

今年に入って、北朝鮮が暴走し、アジア情勢は緊迫の度を深めている。戦後長く北朝鮮を支援してきた中国は、北朝鮮と距離を置くようになった。ミサイル防衛システム(THAAD)配備を受け、中国は韓国を敵視し、実質的に制裁を課している。そこへ安倍首相の変節によって中韓で反日運動が盛り上がると、日中韓朝はいよいよバラバラになってしまう。今後のアジア情勢にとって大きな不安定要因だ。

 

 

政府・自民党は、「仮に安倍首相が寄付をしていたとしても法的には問題ない」という考えのようだが、国際情勢を揺り動かしかねない問題だと認識するべきではないか。安倍首相は籠池理事長と無関係であることを丁寧に説明するとともに、教育勅語を肯定した稲田防衛大臣ともども、グローバルな視点に立って言動を改めて欲しいものである。

 

(日沖健、2017年3月20日)