4日、東京都が主催する婚活イベント「TOKYO縁結日」が開かれ、3千人が参加した。東京だけでなく各地で婚活イベントを開催されており、婚活を支援する動きが全国に広がっている。
日本では、生涯未婚率が男性23%、女性14%に達するという(2015年国勢調査)。結婚する・しないは個人の自由だが、結婚せずに子供を産む習慣がないわが国では、非婚化が少子化問題に及ぼす影響を無視できない。国は少子化対策を進めているが、すでに結婚し子供を生んだ夫婦を対象に子育てしやすい環境づくり、具体的には保育所・託児所の拡充にばかり重点を置いている。婚活支援で非婚化の流れがどこまで変わるのか注目される。
国立社会保障・人口問題研究所が2015年に全国の18歳から34歳の未婚の男女およそ5千人を対象に調査した結果によると、結婚願望がある人が男女ともに8割を超える一方、「異性の交際相手がいない」人の割合が男性で7割、女性で6割と、5年前の前回調査から1割近く増えて、ともに過去最高だった。結婚のハードルとしては、男女ともに4割以上が「結婚資金」を挙げている。
この調査結果を素直に信じるなら、出会いを増やす婚活支援よりも、経済面での対策を講じる必要があるだろう。
経済面の正攻法は、未婚者、とくに結婚適齢期である20~30代の若年層の収入を増やすことである。経済が成長し、企業が将来に確信を持てば、賃上げし、雇用を拡大する。ただ、低成長が常態になっていること、この世代の未婚者では非正規社員が多いことから、収入を増やすのは容易ではない。経済成長や非正規労働者削減のための努力は大切だが、正攻法が効果を生むのは期待しにくい。
そこで、結婚祝金や新婚世帯への家賃補助を支給して、結婚を経済的に支援しようという発想になる。実際に、人口減少に悩む多くの自治体がそういった制度を導入している。しかし、そうした制度で結婚率が上がったとか、新婚家庭の移住が劇的に増えたというニュースを耳にしない。
結局、個人の意思決定としては、独身で親と同居していれば稼いだお金をすべて自由に使えるが、結婚すると住居や子育てなどに金がかかり、自由に使えるお金が激減してしまうことが、最大の問題だろう。結婚しても自由に使えるお金を減らさないように補助金を支給すると、結婚1組当たり数千万円単位の莫大な予算が必要になる。
財政難にあえぐ国・自治体が、結婚を増やすために大盤振る舞いをするのには限界がある。補助金の支給によって結婚を増やすのは、事実上不可能と見るべきだ。
そこで逆に、独身を続けることのデメリットを大きくすることが考えられる。具体的には独身税を導入することだ。独身の方には申し訳ないが、高率の独身税を課せば、金銭的に独身でいることがバカバカしくなり、結婚が劇的に増えるに違いない。
ブルガリアでは、1968年から89年まで独身税が存在した。ただし、収入の5~10%という低税率だったせいか、結婚はあまり増えなかったようだ。独身のデメリットを実感させるには、1人当たり2百万円とかの規模にする必要がありそうだ。
もちろん、独身者への懲罰的な課税は、憲法の「婚姻の自由」を侵害する恐れがある。法的に問題ないとしても、社会的に到底許容されるとは思えない。経済的観点からは優れた制度だと思うが、実現はなかなか難しそうだ。
収入が増えない、補助金を出せない、独身税の導入も難しい、となると、資金が結婚のハードルである限り、「処置ナシ」という結論になる。
結婚を増やすのが不可能なら、次に結婚しないことのマイナスを小さくするよう、社会の仕組みを変えていく必要がある。結婚しないことの社会的なマイナスは色々あるが、大きくは①子供を産まないこと、②高齢者の介護の担い手がいないことである。このうち②については、子供が親を介護するという習慣はなくなり、民間企業や公的施設が社会的に介護を分担する仕組みが広がっている。①子供についても、同じような流れが作る必要がある。つまり、北欧諸国のように結婚せずに子供を産み、育児や教育を社会的に分担するわけだ。
ただ、子育ての社会化には大規模な公的財源が必要だ。北欧諸国のような高福祉・高負担社会への転換を意味し、安定的財源として消費税の引き上げは必須だ。法律で決まった8%から10%の消費税率引き上げすら実現しない日本では、「福祉に必要」というだけで増税するのは困難だ。
結局あれこれ考えた結論は、結婚を増やすことは不可能ではないが、莫大なコストが必要で、政策の優先順位は低いということだ。保育所・託児所も大切だし、婚活イベントも悪くないが、若年層の低収入という根本的な問題について真剣に議論する必要があるだろう。
(日沖健、2017年3月11日)