今年前半の日本はサンドバッグ状態

 

トランプ大統領誕生から半月が経った。「大統領に就任したらちょっとはまともになるだろう」という淡い期待は吹き飛び、偏狭な移民政策や支離滅裂な保護主義政策で世界を大混乱に陥れている。トランプ大統領に対する不安は、ますます募るばかりだ。

 

ところで、日本にとって不可解かつ不気味なのは、最近、トランプ大統領が選挙戦から就任前まで熱心だった中国やメキシコへの批判をトーンダウンし、日本に対する攻撃姿勢を強めていることだ。

 

トヨタのメキシコ工場建設を批判したことに始まり、先週は、為替レートや貿易赤字の問題について、名指しで日本を強く批判した。

 

為替レートついては、たしかに日銀の異次元の金融緩和やゼロ金利は円安誘導だと受け止められても仕方がない面がある。とはいえ、堂々と巨額の為替介入を繰り返している中国と同列で批判しているのは、明らかにバランスを誤っている。

 

貿易赤字でも同じだ。アメリカの貿易赤字全体の50%以上が対中国であるのに対し、対日本は10%程度にすぎない。赤字額が大きいだけでなく、非関税障壁の改善がなかなか進まない中国をあまり批判せず、日本に矛先を向けるのは、首をかしげるところだ。

 

おそらく、トランプ大統領にとって、中国やメキシコは叩きにくく、日本は叩きやすいのだろう。

 

中国について、トランプ大統領は、昨年末の台湾問題を巡る攻防から、中国との交渉が一筋縄ではいかないと悟ったに違いない。多くのアメリカ企業が中国で幅広く活動しているし、アメリカ国民は中国からの輸入品で生活している。中国を刺激し、決定的な対立に発展することは避けたい。

 

メキシコについては、実際に国境に壁を作って移民を排除したら、不法移民だけでも全労働者の5%を占めるアメリカ経済は、労働力不足でたちまち麻痺してしまう。勇ましい言葉とは裏腹に、自分の首を絞める政策はファイティング・ポーズを取るだけで済ませたいのが本音だろう。

 

それに対し日本は、自動車というシンボリックな産業でアメリカ国内メーカーと競合しており、叩けば国民に「戦う大統領」をアピールすることができる。日本は同盟国だし、中国・北朝鮮・韓国との安全保障問題を抱えているので、叩いても中国・メキシコのように噛みついてくることはない。メリットが大きく、デメリットが小さい、実に叩きやすい相手なのだ。

 

トランプ大統領は、今後、減税・規制緩和・公共投資といった経済政策を進めていく。ただ、大統領令で話が進んだ移民政策と違って、こうした経済政策を実現するには議会の承認が必要で、さらに難航することが予想される。政策が思い通りに進まずフラストレーションが溜まったトランプ大統領は、国民の支持を保つためにますます日本叩きをエスカレートさせる可能性がある。

 

日本叩きと言えば、韓国・中国にも警戒が必要だ。大統領選を4月に控える韓国は、国民の支持を取り込むために与野党とも慰安婦問題などでますます対日攻勢を強めることだろう。中国も、秋の全国人民代表大会を控え、2期目を目指す習近平国家主席が対日批判を強める可能性がある。

 

つまり、もともと反日の中国・韓国が日本批判をエスカレートさせ、それにアメリカが加わり、今年前半の日本は各国から袋叩きに遭うことになる。

 

ただし、このサンドバッグ状態が長続きすることはない。半年もすれば、さすがにアメリカ国民もトランプ大統領の欺瞞に気付き、対日批判にあまり反応しなくなるだろう。経済が疲弊している韓国も、大統領選が終わる5月以降は日本との関係改善を模索し始めるに違いない。米韓のヒステリーは、向こう半年くらいに限った話ではないか。

 

この四面楚歌の中、今週いよいよ安倍首相がトランプ大統領と会談する。辻本清美代議士曰く“人が良い”安倍首相には、くれぐれも苦し紛れにアメリカに対し無用な譲歩をして将来に禍根を残すことがないよう留意していただきたいものである。対韓国にも同様だ。また、この機会にヨーロッパ諸国・ロシア・(中韓以外の)アジア諸国などとの関係強化に努め、身勝手な米中韓に左右されにくい体制を作ることができれば、長い目で見て日本の外交の展望が開けてくるだろう。

 

(日沖健、2017年2月6日)