先週に続いて、働き方改革について考えてみたい。「1億総活躍社会」を実現するためには、高齢者の就労や非正規雇用の削減など働き方を巡る色々なテーマがあるが、長時間労働の是正と並んで最も重要で最も難易度が高いのは、女性活躍であろう。
1980年代から女性活躍は叫ばれているのに、他の先進国と比較して日本の女性の就業率は低く(とくに30~40代)、管理職も少ないままだ。おまけに出生率も最低水準を続けている。厳しく言うと、日本の女性は働くでもなく、子供を産むでもなく、「いったい何をしているの?」ということになる。
女性の就業率が30代以降低下するのは、子育てとの両立が難しく、出産を機に離職してしまうからである。日本では、まだまだ「男性は仕事、女性は家事」という役割意識が強く、家事や子育ての負担が女性に集中している。女性に出産後も働いてもらうには、女性の家事の負担を軽減する必要がある。
現在、政府・自治体が取り組んでいるのは、男性の子育て参加(イクメン)の促進と保育所・託児所など育児施設の拡充だ。女性の負担を男性あるいは社会に分担してもらおうという施策である。いずれも当然のように推進されているが、本当に効果にがあるのだろうか。
まず、イクメンは、残業・休日出勤を前提に組織が運営されている現状では、相当経営に余裕のある優良企業しか実施できないだろう。法規制などで無理矢理イクメンを強制すると、企業の生産性が低下し、賃金の低下など悪影響が及ぶ。イクメンは、それ自体を強力に推進するというより、働き方改革などで残業・休日出勤が劇的に減った結果として実現するものだと思う。
待機児童の解消は、国民の関心が高い、緊急性を要する課題である。ただ、闇雲に保育所・託児所を設置するのではなく、問題が深刻な地域を中心に効果を検証しつつ推進するべきだ。首都圏では、自宅近くの保育所・託児所に子供を預けてから1時間かけて通勤することが多く、送り迎えが不便だ。金銭的な負担も馬鹿にならない。女性がまったく働けない状態と比べると前進だが、東京都が8,466人の待機児童を解消するために126億円の補正予算を使うと聞くと(1人当たり約150万円)、費用対効果は大いに疑問だ。
それよりも、現在あまり検討されていない高齢者や外国人家政婦の活用を検討するべきではないだろうか。
子育て世代の親たちは、お金と時間が余っている。体力も前期高齢者なら問題ない。親世代が子供たちの家事・育児を支援すれば、子育て世代の負担が軽減されるだけでなく、高齢者が元気になる、高齢者の貯蓄が有効活用される、など色々な副次効果も期待できる。3世代同居に対する補助は、保育所・託児所の設置よりもはるかに費用対効果が大きいように思う。
また、外国人家政婦の導入を真剣に検討したいところだ。現在、日本だけでなく世界的にも、上流階級以外には家政婦を利用するという習慣はない。ただ、例外的にシンガポールでは、一般家庭でもフィリピン・中国など出身の家政婦(メイド)を気軽に利用し、子育て世代の女性は普通に働いている。私も前職でシンガポールに勤務していた頃、現地で長女が生まれたので、メイドを利用した。安価で実に便利だった。
3世代同居にも、外国人家政婦にも、色々な障害・問題点があり、反対意見が多いと思われる。とくに、外国人家政婦には、単純労働者の出稼ぎあるいは移民を認めるべきなのか、という大きな問題がある。外国人が増えることへの生理的な嫌悪感や日本人の家政婦の仕事の減少も問題だ。しかし、効果が大きいなら、できない理由を探すよりも、実現に向けて知恵を絞るべきだろう。
イクメンは、子育て世代が自分たちの問題を自分たちの解決しようという考え方だ。また、イクメンも保育所・託児所も、不便を我慢して何とか耐え忍ぼうという発想が垣間見える。これらは、日本人の美徳を反映していると同時に、「社会の仕組みを大きく変えずに、何とか事態を改善できないものか?」という発想を表している。
それで何とかなれば良いのだが、長年に渡って解決できなかった問題を小手先の対策で解決できるとは思えない。外国人家政婦の導入など思い切った改革を期待したいものである。
(日沖健、2016年9月12日)