三菱自動車のガバナンス問題

 

三菱自動車工業が三たび世間を騒がしている。三菱自動車の相川哲郎社長は先月20日、軽自動車4車種の燃費試験で実際よりも燃費をよく見せる不正行為を行っていたことを公表した。三菱自動車は、2000年にリコール隠し、2004年に不正データが発覚し、バッシングを受けた。にもかかわらず、またまた不祥事を起こしたことに、世界中から厳しい視線が向けられている。

 

1度でも許しがたい不祥事を短期間で何度も繰り返すのは、明らかに企業体質に問題がある。また、経営陣が事件にどこまで関与していたのかも注目されるところだ。こうした点をうやむやにしたままでは、三菱自動車が再生することはありえない。お詫びと補償で終わりでなく、しっかり原因究明と再発防止策を進めて欲しいものである。

 

ここでは、こうした論点ではなく、現時点であまり問題視されていないコーポレートガバナンス(以下、ガバナンスと略す)について考えてみたい。

 

今回の事件でガバナンスに関する最大の問題は、過去の不祥事の後に経営改革を進めたきた経営体制が適切だったのか、という点だ。益子修会長は三菱商事出身で不正データ事件の際に三菱自動車に移籍し、2007年に社長に就任した。相川社長は三菱自動車のプロパーだが、三菱重工業・元社長で三菱グループ・金曜会の“ドン”相川賢太郎氏の長男である。他にも三菱商事出身の春成敬副社長、東京三菱UFJ銀行出身の田畑豊常務など三菱グループの出身の幹部が多く、事実上“オール三菱”体制で三菱自動車の再建を進めてきた。

 

経営不振に陥った企業を株主が支援するのは、別に珍しいことではない。とくに東京三菱UFJ銀行と三菱商事は、三菱自動車と大きな取引があり、経営再建に協力するのは当然だ。ただ、元々は親会社だが現在ほとんど取引がない三菱重工業などについては、経済合理性に基づく支援なのか疑問だ。当時、三菱重工業・佃社長は支援に消極的だったようだが、改めて当時の意思決定を振り返る必要がある。

 

もし、世間で言われているように、「三菱グループは1社たりとも潰させない」という意地とプライドだけでグループ各社が支援してきたとすれば、自社の株主に対する説明責任を果たせないだけでなく、三菱自動車へのガバナンスも機能しにくく、三菱自動車の社内に「どうせ危なくなったら助けてくれる」というモラルハザードを蔓延させたかもしれない。“オール三菱”の手厚い支援体制が逆に三菱自動車の改革を阻害したなら、大いに問題だ。

 

もう一つ、社外取締役の機能・役割も、検証すべき論点だ。三菱自動車の社外取締役は4人で、佐々木幹夫氏は三菱商事出身、坂本春生氏は経済産業省出身、宮永俊一氏は三菱重工業・現社長、新浪剛史氏は三菱商事出身で、ローソン・現社長である。

 

社外取締役は、経営への関与が限定されるので、不正を発見できなかったのは致し方ない。ただ、不正に関与した従業員がたくさんいたはずなのに、長年に渡って誰一人として社外取締役に内部通報を寄せなかったのは、痛恨の極みである。昨年会計不祥事を起こした東芝でも導入された通り、社外取締役で構成する監査委員会に通報窓口を設置するなどの対策を期待したい。

 

それよりも、三菱商事出身の佐々木氏、三菱重工業・宮永社長、三菱商事出身のローソン・新浪社長の社外取締役としての適性が問題だ。この3名は、東証のルール上は“セーフ”だろうが、オール三菱体制の状況では経営陣との距離があまりにも近く、独立性という点で疑問符が付く。

 

今回、社外取締役4名は「毒にも薬にもならなかった」というのが実態だろう。個人的には、社外取締役を絶対視する最近の風潮には疑問を持っており、社外取締役をことさら糾弾するつもりはない。ただ、制度があり導入する以上、この機会にもっと独立性の高い社外取締役を選任し、お目付け役として機能させるように工夫するべきだ。

 

4月のセブン&イレブンの鈴木敏文会長の退任で日本企業のガバナンスは大きく前進したと言われた。しかし、今回の三菱自動車の事件を見ると、まだまだ改革すべき点が多いようだ。事件の真相究明・再発防止という直接の対策だけでなく、ガバナンスの改革にもしっかり取り組んで欲しいものである。

 

(日沖健、2016年5月9日)