フジテレビは先週16日、4月4日にスタートする夜の報道新番組「ユアタイム~あなたの時間~」で司会を務める予定だった経営コンサルタントのショーンKことショーン・マクアードル川上氏(以下、ショーンK)が降板すると発表した。
ショーンKについて、16日発売の「週刊文春」が学歴などの詐称疑惑があると報道した。ショーンKは15日、自身の公式サイトで学歴詐称を認めた上で、「ユアタイム」を含め現在出演中のすべてのテレビ・ラジオ番組の出演辞退を申し入れた。学歴詐称だけでなく、まともにコンサルティング業務をしていなかったのではないか、など数々の疑惑が浮上している。
私はコンサルタントであることから、複数の方から今回の件について訊かれた。私はコンサルタントの代表選手でも平均値でもないが、同業者として今回の一件について一般的なコンサルタントがどう考えているのかをQ&Aで紹介しよう。
質問1「コンサルタントとして、ショーンKをどう思うか?」
回答「実にうらやましい存在だ。」
コンサルタントの最大の悩みは、なかなかコンサルティング案件を受注できないことだ。一般にコンサルタントは、自分の専門スキルには自信があるが、それを見込み顧客にアピールして受注に繋げるのは苦手だ。そのコンサルタントの最大の問題を難なくクリアしているショーンKは、凄い才能の持ち主で、うらやましい存在だ。
質問2「今回ショーンKがコケたことをどう思うか?」
回答「留飲が下がる。嬉しい。」
コンサルタント、とくに中高年男性は嫉妬深いので、ショーンKのことを「中身がないくせに、アピールだけうまくやりやがって」と妬んでいる。そのショーンKが見事にコケたことは、コンサルタントにとって格好の酒の肴である。
質問3「そうは言っても、今回の件でコンサルタントの社会的地位が低下し、怒り心頭なのでは?」
回答「別に怒っていない。表面的には迷惑がるが、内心はそうでもない。」
多くのコンサルタントは、ショーンKほどではないものの、日常的に誇大広告をしている。A社で経営戦略研修の講師を担当しただけなのに「A社を倒産の危機から救い出した」とか、財閥Bグループの関係会社の1部門でコンサルティングしただけなのに、「私はBグループの軍師だ」と話をどんどん膨らませる。ショーンKと自分の行状が大差ないことを熟知しているので、ショーンKのことを本気で非難したり、腹を立てたりしない。
それはさておき、改めてコンサルタントは悲しい商売だと思う。ショーンKが学歴詐称を働いたのは、コンサルティングの受注を増やしたいというよりも、「世間から認められたい」という承認欲求が強かったのではないだろうか。
普通のサラリーマンなら、ある程度名の通った会社に勤めていれば、それだけで世間に認められる。ところがコンサルタントは、いつまで経っても「いったい何しているんですか?」と聞かれる。最近は、コンサルタントによる脱税指南や詐欺事件が増え、胡散臭い商売というイメージが広がっている。顧客企業でも、依頼主の経営者はともかく、社内をかき乱される従業員はコンサルタントを毛虫のように嫌う。コンサルタントは、世間からほとんど認められていない存在だ。
一般にコンサルントは高学歴で、プライドの高い人が多いので、「こんな優秀な俺様を世間が認めないのはおかしい」と考える。コンサルタント仲間の飲み会では、「赤字続きだったあの会社は俺の指導で立ち直った」「俺は年収ウン千万円だ」などと自慢話し合戦になる。居酒屋でうさ晴らしをしている分には害がないが、それが高じると、やがて学歴・経歴・業績・資格を詐称するようになる。私の周りでも、詐称がバレて業界から消えたコンサルタントが数名いる。小さな“ショーンK事件”は日常茶飯事だ。
私自身は、「コンサルタントなんてしょせん黒子だから、本当に自分を認めてくれる一握りの人に認めてもらえれば十分」と考えるようにしている。しかし一方で、自分のことをより大きく見せたい、人から認められたいという欲求もある。多くのコンサルタントは、私と同じように誠実であろうとする気持ちと承認欲求のジレンマに悩んでいる。他の商売ではあまりない、何とも悲しい性である。
(日沖健、2016年3月21日)