先週、サッカー女子日本代表・なでしこジャパンがリオデジャネイロ五輪アジア最終予選で敗退し、4大会連続の五輪出場を逃した。なでしこは、佐々木則夫監督の指導の下、2011年のワールドカップで優勝するなど世界トップレベルを維持してきたが、今回の敗退で一つの時代を終えた。
敗退が決まった7日以降、専門家・マスコミは大々的に敗因を分析している。大黒柱の澤穂希が昨年引退してチームのまとまりがなくなった、佐々木監督と選手の間に不協和音があった・・・。ただ、断定的なことは言えないが、チーム内の人間関係うんぬんより、単純に相手国との力関係が変わったことによるのではないか。
女子サッカーは、オリンピックの正式種目に採用されたのが1996年のアトランタ五輪で、まだまだ普及途上にある。アジア諸国は近年、なでしこを目標に戦力強化に努めてきた。一方なでしこは、ワールドカップ優勝後、これといった新戦力が現れず、澤・大儀見・宮間といった主力を固定して戦ってきた。戦力アップの諸外国と戦力が頭打ちのなでしこが戦って、現状の実力通りの結果が出たと言えよう。
問題は、なでしこがこの5年間で世代交代を進められなかったのか、という点だ。そもそも女子サッカーは競技人口が少なく、男子のように有望な若手が次々と現れるわけではないので、世代交代が難しい。ただ、それは日本だけでなく世界中のチームに共通する問題だ。佐々木監督は、長期的視野に立ってもっと意図的かつ大胆に世代交代を進めるべきだった。
なぜ、なでしこで世代交代が進まなかったのだろうか。これは、独特のパス・サッカーをしていることが大きいだろう。体格・体力で劣るなでしこは、細かくパスを繋いで相手を崩すパス・サッカーに活路を見出した。パス・サッカーでは、動き方など複雑な決めごとが多いので、決めごとを熟知するベテランに有利で、決めごとを知らない新人には敷居が高い。重要な大会で勝つために“ベストの選手”を選ぶと、いつも同じ顔ぶれのベテランばかり、ということになる。
ワールドカップ優勝、翌年のロンドン五輪銀メダルという成功体験も、世代交代を困難にした。なでしこの場合、パス・サッカーから新しい戦術に転換することで、初めて新人を登用できる。しかし、パス・サッカーで勝っているうちは、リスクを取って新戦術に転換しにくい。成功体験が強烈であればあるほど、転換が困難になる。
以上はスポーツの世界の話しだが、ビジネスの世界でも同じことが言えそうだ。今日、戦後・高度成長期に創業した多くの企業で経営者が高齢化し、オーナー経営者の世代交代、つまり事業承継が課題になっている。事業承継があまりスムーズに進まない企業は、特徴的なビジネスモデルと独特の社風で、過去に大きな成功を収めていることが多い。
事業を成功させるには、他社にない特徴的なビジネスモデルを構築し、独特の社風を形成して全社員が一枚岩になって突き進むことが大切だ。ところが、あまりにも特徴的なビジネスモデル・独特の社風だと、後継者候補はそれに慣れることができない。外部から後継者を招聘するのは、さらに困難だ。現経営者は後継者候補を「まだまだ半人前」と低く評価し、なかなか道を譲らない。経営者と後継者だけでなく、職場レベルでも同じ理由で世代交代が進んでいないように思う。
さすがに、なでしこのように手痛い敗戦を喫すると、「世代交代してチームを作り直そう」という気になる。しかし、企業の場合、決定的な敗戦によってそのまま消滅してしまうかも知れない。よくサラリーマンから「わが社を変えるには、落ちるところまで落ちるしかない」というもっともな意見を聞くが、やや乱暴な意見だろう。
決定的な打撃を受けずに世代交代を進めることはできるのか。妙案はないものの、一つカギになるのは、社外の関係者の声だ。たいていの経営者は、“半人前”の部下の意見は頑として聞く耳を持たないが、顧客・株主・取引銀行・監督官庁などの意見には意外と素直に耳を貸すものだ。
もしも読者の皆さんが勤務先で世代交代が進まないことに不満をお持ちなら、短気を起こして経営陣に直言するのは得策でない。それよりも、社外の関係者を経営陣に引き合わせて、チクリと意見を言ってもらうのが良いだろう。
(日沖健、2016年3月14日)