このところ、大手衣料チェーンのユニクロを運営するファーストリテイリングの業績が頭打ちになっている。先日、2016年8月期の決算予想を下方修正した。売上高は、去年10月時点の見込みより5.3%少ない1兆8000億円、営業利益は10%少ない1800億円にそれぞれ修正した。過去最高益を更新する見込みだが、公表後、同社の株価は下落を続けている。
会社側は、今回の下方修正を暖冬の影響だと説明している。たしかに同業のしまむらも下方修正している通り、暖冬が響いていることは間違いない。しかし、これまでも暖冬や冷夏など天候不順はあったが、これほど業績が悪化したことはなかった。日本国内だけでなく、アメリカなど海外でも事業拡大に急ブレーキがかかっている。
一消費者の目から見て、やはり値上げの影響が大きいように思う。一昨年秋、ユニクロは円安による原価高をカバーするため、秋冬商品を平均5%値上げした。それ以降、来客数は前年割れになる月が増えた。にもかかわらず、昨年も秋冬商品を平均10%値上げした。1990年代に2000円の格安フリースで社会現象を起こしたユニクロだが、もはや「ユニクロ=安さ」という公式は崩れ去り、客離れが深刻化している。
安売りで躍進してきた小売業者が高級化して失速する現象を「小売りの輪」という。マクネイアによると、小売業者は革新的なローコスト経営で市場に参入し、高コストの既存業者から顧客を奪う。しかし、やがて既存業者や後続の参入者との競争が激化すると、利益を確保するために高級化する。すると、やがて次に現れる革新的なローコストの参入者に主役の座を譲る。こうして、循環的に小売業態が進化していくというが小売りの輪である。現在のユニクロは、まさに小売りの輪に陥ろうとしているようだ。
ユニクロだけではない。ダイエーは牛肉の安売りで小売業売上高日本一になったが、バブル期に百貨店に進出するなど高級化して失速し、最終的に倒産した。1990年代に格安スーツで一世を風靡した洋服の青山も、郊外大型店を展開して急成長したヤマダ電機も、都市型高級店舗を出すようになって失速した。小売りの輪は、1957年に提唱されたクラシックな理論だが、今日もなお有効なようだ。
注目されるのは、ファーストリテイリングの今後だ。過去の経験則では「ユニクロはもはやこれまで」だが、小売りの輪にはまって退場を余儀なくされた過去の事例とは、大きく2つ異なる点がある。
一つは、ユニクロよりもさらに安価な新業態としてGUを展開していることだ。小売りの輪は、新たな安売り業態の参入によって生じる。ならば、ファーストリテイリングが自ら次の安売り業態を開発しようというのが、GUの狙いだろう。
もう一つは、積極的にグローバル展開していることだ。過去に小売りの輪にはまった企業は、その分野で売上高日本一になって市場開拓の余地がなくなり、利益率を高めるために高級化した。グローバル展開によって、ユニクロの高級化はそれほど進まずに済むかもしれない。
つまり、GUもグローバル展開も、ともに小売りの輪を強く意識した対策のように見える。さすがは、毎日1冊本を読むと言われる勉強熱心な柳井正会長の面目躍如というところだ。
ただし、これによってファーストリテイリングが小売りの輪から逃れられるかは、まったく不透明だ。GUはたしかに安いが、ユニクロとの違いが不明確で、中途半端だという評価が多い。グローバル展開も、アメリカは苦戦が続くし、順調だった中国でも景気減速の影響が出ている。
小売りの輪を打破することができるのか、ファーストリテイリングの挑戦に注目したい。
(日沖健、2016年1月25日)