ハロウィンの成功要因

先週末、日本中がハロウィンで賑わった。私が住む新横浜でも何かイベントがあったのか、仮装した人たちがたくさん歩いていた。つい5年くらい前まで、新しもの好きの若者が渋谷・六本木など繁華街で騒いでいるだけ、という印象だったが、いまやすっかり国民行事になった。わざわざ日本のハロウィンに参加しにやってくる外国人観光客が増えているというから驚きだ。

日本記念日協会の推計によると、今年のハロウィンの市場規模は1220億円。この4年で2倍超になり、すでにバレンタインデーを上回るという。成熟社会の日本で、これだけ短期間で市場規模が成長するのは珍しい。渋谷で逮捕者が出るなど、異常な盛り上がりに批判の声も上がっているが、コンサルタントとしては、ハロウィンの成功要因を探って、企業経営にヒントにしたい。以下、思いつくまま成功要因を列挙しよう。

第1に、「とにかくばか騒ぎしよう」というコンセプトが素晴らしい。バブルの頃クリスマスに高級ホテルに泊まるのが流行ったが、世間からは白い目で見られて、バブル崩壊とともに下火になった。やはり宗教行事でばか騒ぎをするのは無理があったようだ。対するハロウィンは、もともとばか騒ぎをする行事だから(東京ディズニーランドが日本流にアレンジしたらしいが)、騒ぐきっかけを求めていた日本人に抵抗感なく受け入れられた。

第2に、10月末という実施時期が良い。秋になると日本人のDNAで、秋祭りの血が騒ぐ。真冬のクリスマスやバレンタインと比べて寒くもなく、夏祭りや花火大会と比べて暑くもなく、参加しやすい。

第3に、参加型のイベントであるのも良い。クリスマスやバレンタインは食事とプレゼント交換だけでほとんどアクションを伴わないのに対し、ハロウィンは街に出て参加できる。盛り上がりという点では阿波踊りのような祭りに近く、しかも参加の敷居が低い。

第4に、(第3の点と関連し)参加対象が広い。クリスマスやバレンタインは、(日本では)若い恋人たちが主役で、国民全体に広がりにくい。バレンタインは「義理チョコ」「友チョコ」という日本らしい改良で市場を広げようとしたが、さすがに限界があった。それに対しハロウィンは、老若男女、恋人がいなくても、誰でも楽しむことができる。

第5に、あまりお金がかからないのも好都合だ。簡単な仮装なら数千円もかからない。お金のない高校生やフリーターでも気軽に参加でき、デフレ・所得低下・非正規雇用の時代にはピッタリだ。

第6に、日本人の変身願望を満たしてくれる。日本のハロウィンの仮装は、世界中のどの国よりも過激だと評判のようだ。日本人がアニメで培ったコスプレ文化と見事にマッチしている。

第7に、SNSの時代に合っている。クリスマスで、フェイスブックやツイッターに「彼女と高級フレンチなう」とつぶやいても「あ、そう」という程度だが、ハロウィンの仮装写真だと、ニッコリ微笑んで「いいね!」できる。ビジュアル性が高いことも、SNSにマッチしている。

こうして考えると、ハロウィンが日本で大流行したのは、決して偶然ではないように思う。企業経営者やイベント・飲食などの関係者には、大いに参考にして欲しいものである。

とりわけ注目したいのがタイミングだ。上の7つの要因のうち、第2の実施時期だけでなく、第5の低価格、第7のSNSとの相性も、広い意味でのタイミングと言える。大昔から存在し、東京ディズニーランドがすでに2000年からイベントを開催していたハロウィンが突然2010年以降盛り上がったのは、SNSの影響が大きいのではないだろうか。

どんなに優れた戦略でも、商品でも、実施・投入の時期を誤ると効果を発揮しないことが多い。ハロウィンの成功は、私たちにタイミングの重要性を教えてくれているように思う。

(日沖健、2015年11月2日)