報道によると、石油元売り大手のコスモ石油が2015年度中に持ち株会社に移行するという。精製・販売・資源開発という3つの事業子会社を設立し、持ち株会社の傘下に置く形になる。石油元売りでは、最大手のJXはすでに2010年から持ち株会社である。一方、業界2位の出光興産や東燃ゼネラルは持ち株会社化しておらず、業界内で対応が分かれている。
1997年の独占禁止法改正で純粋持ち株会社が解禁されたこと、2001年の商法改正などで会社分割制度が整備されたことから、持ち株会社への移行が容易になった。近年、グループ経営の推進を目的に持ち株会社に移行する企業が続出し、ブームというべき状況になっている。
しかし、往々にしてブームには盲点があるものだ。持株会社化は、企業にとって本当に良いことなのだろうか。メリット・デメリットを冷静に判断する必要がある。
持ち株会社化のメリットは、機動的な事業運営をできることだ。多角的に事業展開をする大企業において、どれだけ優秀な経営者でもすべての事業を掌握して効率的な事業運営をできるわけではない。事業会社を作って権限移譲することによって、各事業会社が市場・競合の変化に対応した機動的に運営することができる。
また、事業子会社ごとで事業の区分が明確になるので、事業再編などグループ経営を推進しやすくなる。近年、多くの業界でグローバル競争が激化し、企業内にとどまらず、他社を巻き込んで事業再編をする必要性が増している。持ち株会社化によって、事業再編への取り組みが加速している。
もう一つ、会社側が口にしない大きなメリットは、投資家など社外の関係者に“カッコ良く見える”ことである。何も知らない社外の人は、「〇〇ホールディングス」という社名を聴いて、たくさんの事業を傘下に持つ立派な大企業なのだと勘違いをする。あまり多角的に事業展開していない中堅企業まで猫も杓子も持ち株会社化しているのは、こうした勘違いを期待してのことだろう。
このようにさまざまなメリットがある持ち株会社だが、デメリットもある。
まず、社長が増えて意思決定がスピードダウンしてしまう場合がある。持ち株会社の社長が事業運営については事業子会社の社長に権限移譲し、自身はグループ経営に専念すれば良いのだが、実際はそうでもない。権限移譲に消極的で、現場のオペレーションにまで事細かく指示を出している親会社社長が多い。
それよりも私が気にするデメリットは、持ち株会社化で事業間のシナジー効果やイノベーションを阻害してしまうのではないか、という点だ。シュムペーターがイノベーションの本質を「経営資源の新結合」と表現した通り、異質な情報・知識が交わることでイノベーションが生まれる。事業会社という形で事業ごとの垣根を高くすると、事業間の情報・知識の交流は難しくなり、イノベーションは停滞してしまう危険性がある。
以上の検討から、持ち株会社は、絶対的に良いものでも悪いものでもない、という結論になる。持ち株会社に移行するべきかどうかは、経営状況によって違ってくる。組織の規模が大きくなりすぎて機動的な組織運営ができなくなっている場合や事業再編が待ったなしという状況なら、持ち株会社化は合理的だ。一方、シナジーやイノベーションの創出を重視するなら、持ち株会社化はあまり得策ではない。
今日、グローバル市場を戦う日本企業が低価格攻勢を強める新興国企業に対し優位に立つために、斬新なイノベーションを創出することが喫緊の課題になっている。イノベーションを抑制する可能性が高い持ち株会社化に猫も杓子も邁進している状況には、危惧を感じざるを得ないのである。
(日沖健、2015年2月16日)