働かないオジサンの本当の問題

今年ビジネスの世界でかなり話題になったのが、いわゆる「働かないオジサン」である。職場にいる中高年男性のうち相当部分が、出世はもちろん、仕事そのものに意欲・関心を失い、仕事を周りに任せて何もしない状態だという。今年、ネット・雑誌・ビジネス書では、働かないオジサンの呆れた実態や対処方法、あるいは若手に「年を取って働かないオジサンにならないようにするにはどうするべきか」を指南する記述が目立った。

しっかり調べたわけではないが、働かないオジサンというのは、日本独特の現象であろう。アメリカでは定年制がないので(定年制は人権侵害で法律違反!)、労働者は、高齢になって満足に仕事ができなくなったら自ら退職するのが普通だ。居座ろうとする社員を会社が解雇することも比較的容易だ。仕事をしない人が延々と会社に居座り続けることはない。

それに対し日本では、60歳とか65歳の定年があり、それまで会社は仕事をしないという程度の理由で労働者を解雇することができない。働かないオジサンが会社に居残ってしまうことを排除できないのだ。オジサンが悪いというより、そういう存在が認められる雇用規制のあり方が避難されるべきだ。

働かないオジサンは、会社に対して様々な害悪をもたらす。本人に支払う人件費が無駄になるだけでなく、仕事を押し付けられる若手のモチベーションを低下させ、職場の生産性を低下させる。ひいては、職場の風土を悪化させ、会社全体を蝕んでしまう可能性がある。

さすがにクビを切るのは難しいものの、何らかの対策が必要だろう。若年層に賃金を抑えてその分を高齢期に後払いするというやり方を改め、その時々の働きに見合った給料を払うという賃金改革に取り組むべきだ。

ところで、働かないオジサンなんて昔からどの職場にもいたはずなのに、今になって話題を呼んでいるのはなぜだろうか。

一つには、働かないオジサンの絶対数が増えている可能性がある。そもそもこの世代は人口が多く、高度成長期に大量採用した社員がたくさん残っている。年金受給開始年齢の引き下げに合わせて定年が60歳から順次65歳に繰り下がっており、各社で中高年社員が増えている。

もう一つ、職場における人間関係の変化が影響しているように思う。一昔前は、職場で働かない(または仕事ができない)社員がいたら、周りの人たちが手伝って一緒になって片づけたので、働かないオジサンが目立たなかった。しかし最近は、職場のコミュニケーションが希薄化し、働かないオジサンが職場で孤立するようになり、その存在がクローズアップされるようになった。

とくに後者は、日本企業にとって大きな問題ではないだろうか。

高コスト体質、リーダーシップの不在、イノベーションの不足などさまざまな問題点を指摘されている今日の日本企業において、今なお世界に誇れるのが、モチベーションの高い社員が一致団結してチームワークを発揮していることである。しかし、若手社員が「働かないオジサンのせいでサービス残業が多くて、やんなっちゃうよ」と言っているような企業は、こうしたチームワークが崩壊している状態と考えて間違いない。

働かないオジサンは、日本の硬直化した雇用規制の象徴で、それ自体が大きな問題だが、その存在がクローズアップされてしまうチームワークの崩壊も、より大きな問題と思うのである。

                                      (日沖健、2014年12月22日)