香港はどこへ行く?

昨日まで出張で4日間香港に行った。

やはり気になるのは民主化を求める反政府デモのその後ということで、デモの中心地・旺角に見物に行った。しかし、すでに25日までに警察によるデモの排除が行われたため、私が行った27日は、警察官がたくさんウロウロしていた以外、街はいつもと変わらない平穏さだった。

昨日30日には再びデモ隊と警察官の大規模な衝突が起きたようだが、私がいた市街地は、まったくいつもと変わりなかった。今後の動向は予断を許さないものの、徐々に沈静化していくのではないだろうか。

あれだけ世界を騒がせたデモが沈静化された様子を目の当たりにして、香港はこれからどこに向かうのか、と考えさせられた。

デモが起こった9月下旬、世界のメディアでは、民主化の動きが香港のみならず、中国本土にも波及し、中国の国家体制を揺るがすのではないかと言われた。中国が責任ある大国になったこと、香港が世界に開かれた先進都市であることから、これまでのような強引な方法でデモを鎮圧するのは難しいのではないかと思われた。

人によっては、デモを鎮圧するのに2か月以上要していることに、中国の統制の弱体化を見たかもしれない。しかし、個人的には、香港が何ごともなかったかのような状態に戻りつつあることに、香港の中国への同化が着実に進んでいることを感じた。

今回、タクシードライバーや飲食店・土産物店の店員など6名にデモについて聞いたところ、うち5名が「それは何のこと?」という返事で、私が詳しく説明すると、ようやく「ああ、あれね!」と間抜けな反応をした。学生に訊ねたらまた反応が違ったかもしれないが、今回のデモは香港人にとってそれほど大きな関心事ではないようだ。

そもそも、私が英語でしゃべりかけると、慌てて英語がわかる別の店員を呼びに行くということを2度も経験した。1997年にイギリスから中国への返還が行われて以降、香港では英語教育に力を入れなくなったという。香港人の英語力は、かなり低下しているようだ。

香港は、1997年の返還当時、アジアではシンガポールと並ぶ欧米化された国際都市だった、背後に中国があることから、中国の玄関口として、アジアの他の都市と比べて圧倒的な優位性があると思われていた。

しかし、現実には、民主化が後退しただけでなく、中国の玄関口としての機能はむしろ低下し、他の国際都市と比べた競争力も落ちている。森記念財団が発表した「2014世界都市総合ランキング」によると、香港は世界9位で、アジアでも4位東京、5位シンガポール、6位ソウルの後塵を拝している。香港の富豪たちは、将来の中国への完全統合を見越し、シンガポールに移住しているという。

デモが完全に鎮静化したら、民主化を求める勢力は意気消沈することだろう。そして、返還から最低50年間、2047年まで保証されている香港の高度な自治権は、それほど遠くない将来に失われるのではないだろうか。勝手な予想では、2025年までに香港は実質的に中国に同化されると思う。

ただし、香港が完全に中国に同化したからといって、中国の共産党一党独裁が将来に渡って盤石というわけではない。

元々は中国の領土で広東省出身者が大半を占める香港と違って、歴史的にも民族的にもまったく中国と異なるチベットやウイグルなどは、さらに民主化・独立を強く求めるようになるだろう。大国となった中国が、これまでのように強硬に弾圧をすることはできない。

また、中国の生産年齢人口は2012年にピークを迎え、すでに労働力が減少する“人口オーナス期”に入る。人口減少でGDP成長率が急低下すると、成長に覆い隠されてきた国民の不満が噴出し、共産党の支配力は弱まって行く。

同じく勝手な予想では、2025年までに共産党の一党独裁は終わり、中国は深刻な内部分裂の危機に直面していると思う。

香港の動静はしばらく注目だが、香港がどうなろうとも、中期的に見て中国共産党の一党独裁の終焉は不可避だと思うのである。