商店街の声に耳を傾けるべきか

7-9月のGDPは前期比マイナス1.6%と、2期連続のマイナスになった。4月の消費税増税による落ち込みから回復せず、厳しい状態が続いている。それを受けて18日、安倍首相は来年10月に予定されていた再増税を2017年4月まで1年半延期することを表明し、衆議院を解散した。

“日銀一本足打法”で、成長戦略や構造改革に真剣に取り組まずに2年間を浪費した安倍政権が、総選挙で改めて国民から信任を得たとしても、今さら何か大きな改革を実現できるとは思えない。1年半後も景気が回復していない可能性が高いのではないか。末期的な財政状況からすると、延期せず予定通り増税すべきだと個人的には考える。

ところで、こういう景気の話しになると、マスコミは、たいてい昼時の商店街を取材し、商店街の店主や来客(主に高齢の主婦)の声を報道する。お約束で、店主は「増税後客足が落ちて、経営が苦しい」、来客は「物価が上がって、生活が苦しい」などと窮状を訴える。それを見聞きして人々は、「ああ、やっぱり景気悪くて国民はみんな困っているだな・・・」と共感する。

しかし、「商店街の声=国民の声」として景気を論じて良いものだろうか。

90年代以降、イオンなど大型ショッピングセンターが増え、商店街は加速度的に衰退している。最近はネット通販・ネットスーパーも普及している。国全体で見ると、商店街は、消費者の買い物の選択肢として、もはやほぼ無視できるマイナーな存在になっている。

商店街で昼間に買い物をするのは、近隣に住む高齢者だろう。それよりも数として圧倒的に多いのは、商店街以外の住宅地や商店街のない地域に住む人たちだ。商店街の来客が国民を代表しているとは到底思えない。

また、商店の経営状態が世間一般の景況感に連動しているとも思えない。(中小企業診断士の世界では禁句だが)たいていの商店主は、親から商店を引き継いでいやいや商売をしているだけで、事業意欲が低く、まともな経営努力をしていない。イオンやネット通販に客を食われるのは当たり前で、景気の良し悪しに関係なく、いつも口癖のように「経営が厳しい」と言うものなのだ。

このようにいまや特殊な存在となった商店街の声に耳を傾けると、景気について間違った認識をしてしまう可能性がある。

マスコミは、報道のライブ感を出すために、あるいは「私たちは国民の声に真摯に耳を傾けているんですよ」と誠実感・ガンバリズムを示すために、商店街の声を拾っているのだろう。しかし、冷静に考えると、テレビ局や新聞社の近くの商店街をちょろっと取材して「これが国民の声です!」と報道するのは、極めて不誠実な姿勢であると言えよう。

マスコミは、商店街の声を聞くという安易な報道姿勢を改め、もっと幅広く普通の国民の声を拾うべきだ。それが難しいというなら、「景気ウォッチャー調査」の結果をきちんと紹介すると良い。

景気ウォッチャー調査は、内閣府が2000年に導入した景気動向調査である。「街角景気」とも呼ばれる通り、全国の小売店主・タクシー運転手など景気に敏感な職種の2050人にインタビュー、毎月結果を公表している。結果は、指数だけでなく、調査対象者の生の声も紹介されており、速報性も含めて、非常に有用な調査になっている。

10月の景気ウォッチャー調査は、景気が後退局面に入ったことを示しており、結果として商店街の声と一致している。ただ、景気を睨んだ経済対策がますます重要になっている昨今、結果オーライでなく、冷静に実態を把握する姿勢が求められると思うのである。