日本企業の問題点として、収益性の低さがよく指摘される。収益性の代表的な指標であるROE(Return On Equity自己資本利益率)は、アメリカの大手500社で構成されるS&P500採用銘柄の平均が14%であるのに対し、 東証一部上場企業の2014年3月期の平均値は8.6%にとどまっている。
戦後の日本企業は、資本の蓄積が少なかったので、資本自由化のような外的ショックの影響で経営が危機的状況に陥ることが懸念された。そのため、収益性よりもまず安全性を高めることが重要課題だった。過小資本はすでに解消された今日でもなお、「無借金経営」が理想だとされているように、安全性を重視する経営者は多い。
最近になって、ようやく収益性に関心が向くようになった。とくに今年1月、東証がROEなどを重視して銘柄を選定する新しいインデックス「JPX400」を導入したことから、上場企業では“ROEブーム”というべき状況になっている。日本企業はようやく、安全性重視から収益性重視へと舵を切った形だ。
しかし、収益性だけが問題かというと、そうではない。安全性・収益性とともに、成長性を高めることが日本企業にとって大きな課題となりそうだ。日本企業は、新興国だけでなく、アメリカなど先進国の企業と比べても、成長率が異常に低い。売上高・利益などでリーマンショック前あるいはバブル期を超えられず、長期間を停滞している企業が多い。
低成長の直接の原因は、グローバル展開や新規事業開発が進んでいないことである。グローバル化が急速に進んだ1990年代以降、日本企業は国内生産と輸出に拘り、グローバル展開に及び腰だった。時代遅れになった既存事業の収益改善に注力し、新規事業に真剣に取り組まなかった。グローバル化やIT化といった変化は、世界の企業にとって飛躍のチャンスであったのに対し、日本企業にとっては脅威にしかならなかった。
コンサルタントをしていて個人的に気になるのは、日本企業の経営者は成長性の指標があまり重視していないことである。「売上高1兆円」といった売上高や「経常利益500億円」といった利益の金額目標はたいていあるのに、今後何%成長するのか、という成長性の目標を持っていない。
成長性の代表的な指標は、長期に渡る売上高・利益の成長を複利で算出するCAGR(年平均成長率Compound Annual Growth Rate)である。たとえば、過去5年間で売上高が100から150に50%伸ばすとしよう。この場合、年平均の伸び率は50%÷5年=10%だと思いがちだ。しかし、売上高100が毎年10%成長すると、複利の効果で5年後には161になる。この例でCAGRは、8.4%である。
多くのアメリカ企業で、CAGRはROEと並ぶ重要な経営指標となっている。しかし、日本では、CAGRの目標を掲げている企業はほとんど見当たらない。会計本を見ても、収益性や安全性については詳しく書かれているが、成長性についてはあまり記述がない。成長性というと、前年対比の伸び率だけを取り上げ、CAGRに触れていない。ときおり、「CAGRはCompound Average Growth Rateの略です!」と堂々と書いている恥かしい会計本やネットの解説記事を見受ける。
しっかした目標を持たず、成り行き任せの状態では、大きな成果を期待できない。今後、日本企業が成長性を高めてグローバル市場を勝ち抜きたいと願うなら、まず成長率の目標を掲げるべきである。読者の皆さんの所属企業が成長性の目標を持っていないなら、経営者に対し、「CAGRを知っていますか?」と問うてみてはどうだろうか。
(日沖健、2014年11月10日)