片山幹雄・シャープ元社長の日本電産への移籍が話題を呼んでいる。すでに9月1日に顧問として入社し、10月1日からは副社長に就任する。CTO(最高技術責任者)を兼務し、来年6月には代表権も与えられるという。剛腕で知られる創業社長の永守重信社長とともに、日本電産の経営のかじ取りを担うことになる。
片山氏は2007年に49歳の若さでシャープの社長に就任した。その直後に堺市に液晶パネル工場を建てる決断をした。総投資額は3800億円、社運を賭けたビッグプロジェクトだった。
しかし、翌年に発生したリーマンショックの余波で円高が進み、2009年に堺工場が稼働した頃には、韓国勢などに対する価格競争力が失われていた。堺工場の稼働率は低迷し、シャープは2012月3月期に過去最悪の3760億円の最終赤字を出した。その責任を取って、片山氏は2012年4月に社長の座を降りた。絵に描いたような失敗社長である。
今回の移籍について、個人的にはやり切れない思いと「片山さん頑張れ!」という思いが交錯する。
シャープは、経営危機に見舞われた2011年以降、大規模なリストラを実施した。その過程で、(正確な真偽は不明だが)いわゆる「追い出し部屋」といった非人道的な退職強要が行われた。多くの元社員が今なお経済的・精神的に苦しむ中、大リストラの原因を作り、大リストラを強行した張本人が自分だけぬくぬくと再就職するというのは、納得できない話しだ。ネットで「片山バッシング」が渦巻いているのは、当然だろう。
シャープと同じく近年凋落したソニーでA級戦犯とされる出井伸之元社長は、ソニーを去った後、クオンタムリープ株式会社を創業し、産業の活性化や新産業・新ビジネス創出を支援している。片山氏に「社員に申し訳ない」という気持ちが少しでもあるなら、抜け駆けするより、出井氏のようなやり方を模索するべきだったのではないだろうか。
とはいえ、個人的には片山氏を応援したい気持ちが強い。
永守社長は、今回、片山氏を起用した理由を「挫折を経験した人間は再起のチャンスが巡ってくれば、同じ失敗はしないし、並々ならぬガッツで勝ち抜くものだ」と語っている。
たしかに、永守社長の言う通りで、失敗は掛け替えのない財産だ。失敗したからと言って「もう表舞台には出るな」と言っていると、せっかく貴重な失敗を経験した人材が埋もれてしまう。これは日本にとって大きな損失だ。
日本では、一度失敗をして転落したら、そのまま再起できずに終わることが多い。とくに政治家・芸能人といった著名人は評判が重要なので、いったん敗者の烙印を押されると、復活しにくいのだろう。
企業でも、敗者復活はあまり一般的ではない。日本企業は、実績・成果よりも「あの男は人望がある」といった社内での評判で昇格・昇進が決まる傾向が強いからだ。経営者や人事部門は、社員がよほど重大な不祥事でも起こさない限り、敗者の烙印を押すことはしない。敗者復活がない日本企業では、敗者の烙印を押すのは死刑宣告を意味するから、慎重にならざるを得ない。
少々のことでは敗者の烙印を押されないのだから、社員は安心して新しいことに果敢に挑戦してくれれば良さそうなものだが、現実にはそうなっていない。従業員が「人に優しい経営」に安住し、ぬるま湯体質に陥っている企業は多い。
片山氏には、日本電産で成果を実現し、日本企業でも敗者復活が可能であることを世に示してほしいものである。片山氏が成功して、敗者に烙印を押す日本の悪しき風土が変わるなら、画期的なことだ。
人として片山氏を許せない、でも片山氏には成功して欲しい。何とも複雑な心境である。
(日沖健、2014年9月15日)