経営コンサルタントとして仕事をしていて、圧倒的によく使う分析技法がSWOT分析(SWOTは、Strength強み・Weakness弱み・Opportunity機会・Threat脅威の略)である。新規事業を創るとき、中期経営計画を策定するとき、組織を改革するとき、などなど経営について何かアクションを起こす場合、まずSWOT分析で内外の経営環境を体系的に博することから始める。私だけでなく、世界中のコンサルタント、世界中の企業がSWOT分析をしていることだろう。
では、私を含めてコンサルタントや企業経営者がSWOT分析に卓越しているかというと、そうでもないような気がする。
もちろん、SWOTの各項目を列挙するなど、一通りのことはできるのだが、この分析によって斬新な戦略が生まれたとか、画期的な新商品が生まれたという話しはあまり耳にしない。実態は多くのコンサルタントや企業にとって、やらないと居心地が悪いので何となくやっている、通過儀礼という位置づけだ。
しかし、通過儀礼のまま終わるわけではない。新しい戦略・事業・商品は、基本的にStrength強みを生かすか、Opportunity機会を捉えることで生まれる。ちなみに、S強みを生かす戦略をリソース・ベースト・ビュー(RBV)、O機会を捉える戦略をポジショニング・ビューと呼ぶ。また、既存事業の改善は、Weakness弱みを克服するか、Threat脅威に対処することで実現する。SWOT分析という形で最初は通過儀礼としていい加減に実施したとしても、その後のどこかの段階でSWOTをしっかり分析しているものなのだ。
どうせやる必要があるなら、「詳しくは後ほどじっくり」ではなく、初期段階できちんと実施すると良いだろう。私は、コンサルティング・プロジェクトにおいて、可能な限り時間を掛け、丁寧にSWOT分析をするようにしている。
SWOT分析で成果を実現するには、いくつかのコツがある。その中で特に注意しなければならないのは、S強みとO機会、とりわけO機会を幅広く抽出することだ。
自然体でSWOTを実施すると、ネガティブ思考でW弱みとT脅威ばかりが目に付いて、S強みとO機会はほとんど出て来ないという事態に陥る。しかし、ヤマト運輸の宅急便しかり、セブンイレブンしかり、セコムの警備保障事業叱り、長期的に発展する企業は良い戦略を実践しており、戦略はS強みとO機会から導き出される。意図的にS強みとO機会を抽出すると良いだろう。
O機会を抽出する上で是非実践して欲しいのが、SWOTのうち、まずO機会から検討を始めることだ。
ほぼ100%の人が。SWOTを文字通りS→W→O→Tの順番で実施していることだろう。しかし、この順番で自社内部を分析してからO機会を検討すると、「自社の強みを生かせる事業機会は何か?」という発想になってしまい、事業の周辺の限られた範囲の事がらしか見えて来ない。それに対し、Oから実施すると、社内事情に囚われず、幅広く外部環境を見ることができる。
さらに、「自社にとっての機会は?」と考えるのではなく、PEST(Politics法規制、Economy経済、Society社会、Technology技術)に代表されるマクロ環境の大きなトレンドをまずチェックすることから始めると良いだろう。マクロ環境のトレンドを確認し、「少子高齢化が当社の事業にどう影響するか」という順序で考えると、幅広い視点が得られる。
SWOTは経営の基本中の基本だが、それで大きな成果を生むには、実施する順序が極めて重要なのである。
(日沖健、2014年8月11日)