社外取締役への視線は徐々に厳しく

 

6月下旬に行われた3月期決算企業の株主総会で、社外取締役の選任を巡る議決が注目を集めた。

 

ロート製薬では、神戸大学大学院の金井寿宏教授の選任案に対する反対票が43%に、パナソニックでは、日本生命保険相談役の宇野郁夫氏に対する反対票が41%に達した。選任案は否決されなかったものの、何も考えずに選任する一般株主が相当数に上る現状を考えると、事実上株主は2人に「No!」を突きつけたと言えよう。

 

2人が多数の反対票を集めた理由ははっきりしている。金井教授は昨年全7回行われた同社の取締役会のうち4回の出席にとどまった。宇野氏は、全12回中7回だった。どんな事情があったにせよ、両氏が社外取締役として経営を監視する責任を果たしていないことは明白である。

 

近年、日本でも社外取締役の選任が急速に進み、すでに東証1部上場企業の70%が社外取締役を導入している。しかし、まだまだ日本企業は社外取締役を使いこなしておらず、お飾りに過ぎないということだろう。

 

色々な人材が社外取締役に就任しているが、多いのは、金井教授のような学識経験者や宇野氏のような元経営者である。

 

学識経験者は、「著名な先生なら見栄えが良いだろう」ということで、企業側のニーズが強い。関東では一橋大学、関西では神戸大学といった経営学研究の盛んな大学のスター教授が人気を集める。しかし、研究活動で忙しい本物の研究者が何社も社外取締役を兼任することはありえない。個人的に多くの著作で感銘を受け、尊敬している金井教授を批判するのは忍びないが、金目当てに企業に媚を売る「芸者」とよく揶揄されるのも当然だろう。

 

ただ、学識経験者が芸者活動にうつつを抜かすのは、本人の生き方としては問題だが、会社・株主に対し(それほど)迷惑を掛けるわけではない。それよりも、宇野氏のような元経営者は、実に色々な問題をはらんでいる。

 

元経営者は、すでに相当な収入を得ており、学識経験者と違って小銭が欲しいわけではない。では、何のために社外取締役を引き受けるのか。完全に引退してただの老人になると、自分の居場所がなくなってしまう。そうならないよう、何とか社会とつながっていたいのだろう。

 

従来は、経営者を辞めたら顧問とか相談役という肩書で死ぬまで自社に残ることができた。しかし、何十人もの顧問・相談役がいながら大不祥事を起こした2001年の三菱自動車の事件以降、創業者やよほどの実力者でもない限り、会社に残って遊んで余生を過ごすというのは難しくなっている。そこで、知り合いの経営者に頼んで社外取締役にしてもらい、大手を振って余生を過ごそうというわけだ。

 

そういう元経営者が、「人生最後のご奉公」と経営の監視やアドバイスに頑張ってくれれば良いのだが、経営者としてのプレッシャーから解放されて“上がり”状態の老人がそこまでの強い意欲を示すのはまれだ。宇野氏のように会社に来ないのはむしろありがたい話しで、上から目線で時代遅れの頓珍漢なアドバイスを繰り返し、会社を大混乱に陥れる老害は珍しくない。社外取締役への情報提供のために経営企画部門が大残業をしている会社も多い。

 

さらに、社外取締役の出身企業にも悪影響が及ぶことがある。自社に置いておけなくなった元経営者を引き取ってもらうために、わざわざ取引上の便宜を図っている事例をたびたび耳にする。

 

日本の経営者は国際的に見て高齢で、熾烈なグローバル競争を戦うには判断力もスピード感も足りないとされる。顧問・相談役が下火になって10年。社外取締役という新たな装いで高齢者クラブが復活するとすれば、日本経済にとって由々しき事態だ。社外取締役を置けば株式市場から評価される時代は終わった。自社の社外取締役が本当に役に立っているのか、検証する必要があるだろう。

 

(日沖健、2014年7月7日)